Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
腎泌尿器:腎泌尿器2

(S485)

経腹的超音波計測による骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁患者の膣壁肥厚

Vaginal wall thickening in patients with pelvic organ prolapse or stress urinary incontinence by transabdominal ultrasound measurements

菅谷 公男1, 2, 嘉手川 豪心2, 3, 西島 さおり2, 多和田 真盛4, 百名 将士4, 平敷 義隆4, 具志 和子4, 新里 尚子4, 松田 弘二4, 運天 芳浩4

Kimio SUGAYA1, 2, Katsumi KADEKAWA2, 3, Saori NISHIJIMA2, Sinsei TAWADA4, Masasi HYAKUNA4, Yoshitaka HESIKI4, Kazuko GUSI4, Naoko SINZATO4, Kouji MATUDA4, Yoshihiro UNTEN4

1北上中央病院泌尿器科, 2サザンナイトラボラトリーLLP泌尿器科, 3沖縄協同病院泌尿器科, 4沖縄協同病院中央臨床検査室

1Department of Urology, Kitakami Central Hospital, 2Department of Urology, Southern Knights’ Laboratory LLP, 3Department of Urology, Okinawa Kyodo Hospital, 4Central Clinical Laboratory, Okinawa Kyodo Hospital

キーワード :

【目的】
膀胱瘤,子宮脱や直腸瘤などの骨盤臓器脱は膣壁の伸展を伴う.腹圧性尿失禁では骨盤底筋群の弛緩で膀胱頸部が下垂しているが,その下垂は膀胱頸部に接する膣前壁の下方への伸展を伴う.したがって,これら疾患では膣壁が薄くて弱いのか,それとも伸展刺激にさらされて逆に炎症性に厚くなっているのか分かれば,超音波検査による膣壁の厚さ測定で骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁の罹患を予想できる可能性がある.そこで,本研究では骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁とそれらの疾患のない泌尿器科患者で経腹的超音波検査による膣壁の厚さ計測を試みた.
【対象と方法】
平成23年1月から11月の間に北上中央病院と沖縄協同病院の泌尿器科外来を受診した女性患者で手術適応のある骨盤臓器脱または腹圧性尿失禁と診断された患者と,平成23年8月から10月までに沖縄協同病院泌尿器科外来を受診した女性患者で,通常の経腹超音波検査を行う際に膀胱三角部後方の膣壁を前壁と後壁を一緒にして厚さを計測した.骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁のない患者をコントロール群として,コントロール群の膣厚と年齢の関連や,コントロール群と骨盤臓器脱群や腹圧性尿失禁群の膣厚を比較した.骨盤臓器脱群や腹圧性尿失禁群ではそれぞれの治療手術の前後の膣厚も比較した.
【結果】
コントロール群は110例で,年齢は61±20歳(平均±標準偏差),膣厚は10.1±3.1mmであった.年齢と膣厚に関連はなかった.骨盤臓器脱群は59例で,年齢は66±9歳,膣厚は15.4±4.7mmであり,コントロール群より有意(p<0.001)に膣は肥厚していた.しかし,Tension-free vaginal mesh(TVM)術後3ヵ月(8例)では膣厚は10.3±2.6mmとなり,術前より有意(p<0.001)に薄くなり,コントロール群と差はなくなっていた.腹圧性尿失禁群は12例で,年齢は65±12歳,膣厚は14.8±4.1mmであり,コントロール群より有意(p=0.003)に膣は肥厚していた.Trans-obturator tape (TOT)術後3ヵ月(3例)でも膣厚は14.0±3.6mmであり,術前後で差はなかった.
【結論】
骨盤臓器脱でも腹圧性尿失禁でも膣壁は厚くなっていた.このことはこれら疾患では膣壁に負荷がかかって膣壁が肥厚していることを示唆する.骨盤臓器脱に対するTVM手術後には膣厚は正常化していたが,腹圧性尿失禁に対するTOT手術後は膣厚に変化はなかった.TVM手術は膀胱後面全体をメッシュで覆うため,膣の過伸展は予防されて膣圧は正常化したものと考えられた.しかし,TOT手術ではメッシュテープが膀胱後方ではなく尿道の後方にかかるだけなので,膀胱に接する膣前壁の伸展は防止できないので膣壁の肥厚が術後も継続すると考えられた.したがって,膣壁の肥厚は現在または将来的な骨盤臓器脱か腹圧性尿失禁の罹患を示唆する可能性がある.