宮下 進^{1, 2}, 小澤 克典^{1, 2}, 佐藤 聡二郎^{1, 2}, 室月 淳^{1, 2}, 長谷川 英之³, 金井 浩³

Susumu MIYASHITA^{1, 2}, Katsusuke OZAWA^{1, 2}, Soujirou SATOH^{1, 2}, Jun MUROTSUKI^{1, 2}, Hideyuki HASEGAWA³, Hiroshi KANAI³

¹宮城県立こども病院産科, ²東北大学大学院先進成育医学講座 胎児医学分野, ³東北大学大学院工学研究科 電子工学専攻

¹Department of Maternal and Fetal Medicine, Miyagi Children’s Hospital, ²Department of Advanced Fetal and Developmental Medicine, Graduate School of Medicine, Tohoku University, ³Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

【背景】
臨床用の超音波診断装置では,送信ビーム方向の距離分解能の理論値は1 mm程度であり,胎児血管径の計測のためには精度が不足する．パルス送受信で,任意の測定点からの反射波の伝搬遅延時間の変化を位相偏移をもとに算出すれば,計測点の運動速度を高精度に推定可能である．これが位相差トラッキング法（phased tracking） の原理であり,これを用いて血管壁上などに定めた計測点の微小な速度を継続して計測可能となる．得られた速度の時間積分により距離（位置変化）が得られるが,計測点を複数設定することで血管径や心筋厚を計測できる．理論的な速度の計測精度は 0.1 mm/sで積分値としての距離0.2 μm程度に相当する．
【目的】
双胎間輸血症候群（TTTS）の胎児治療法である胎児鏡下吻合血管レーザー凝固術（FLP）前後では,供血児,受血児とも循環動態の変動が予想されるが,血圧変動に関しての明確な指標が得ることが従来は困難であった．位相差トラッキング法により胎児血管径の変動を計測し,FLP前後での循環評価,特に血圧の推定を行うことを目的とした．
【方法】
計測には中心送信周波数3.5MHzのコンベックス型探触子を用い,パルス繰返し周波数は4.5kHzとした．超音波診断装置（東芝SSA370A）からアナログ出力したRF直交検波信号をワークステーションに取込み解析を行った．計測点は,血管内腔の近位端と遠位端に設定し,ビーム方向のトラッキングにより横隔膜レベルでの胎児下行大動脈径の変化を観察した．1回あたり3心周期を計測し,それぞれ5-8回の計測の平均値を採用した．同意の得られた6症例（18-21週,Quintero Stage I-IIIa）において,FLP前,急性期（術後1日）および慢性期（6-8日）に計測を行い,FLP前からの変化率を求めた．
【成績】
供血児: 血管径変化: 急性期118-315％（183+/-31％）, 慢性期 189-225％（192+/-35％）, 径変化率 : 急性期107-172％（158+/-22％）, 慢性期 115-259％（174+/-23％）で有意（p＜0.05）に増加した．（値はmean+/- SE）受血児: 血管径変化: 急性期112-358％（200+/-35％）, 慢性期 105-348％（213+/-36％）, 径変化率 : 急性期112-358％（188+/-36％）, 慢性期 116-350％（197+/-32％） で有意（p＜0.05）に増加した．
【考察】
胎児下行大動脈径の心周期にともなう変動は,血管内圧情報を反映すると考えられる．TTTSのFLP術後では,術前と比較して供血児,受血児ともに体血圧が上昇し,慢性期でも上昇した血圧は維持されることが示唆された．血圧上昇の成因として,供血児では血管内容量の増加や後負荷の上昇,受血児では前負荷の軽減による心ポンプ機能の改善が考えられた．位相差トラッキング法は,TTTSの胎児治療前後における循環評価,特に血圧情報の非侵襲的評価が期待できる有用なモダリティである．