請田 絵美子¹, 林 敬二¹, 伊藤 恵², 佐藤 美樹², 秦 利之²

Emiko UKETA¹, Keiji HAYASHI¹, Megumi ITO², Miki SATO², Toshiyuki HATA²

¹内海病院産婦人科, ²香川大学医学部母子科学講座周産期学婦人科学

¹Department of Obstetrics and Gynecology, Uchinomi Hospital, ²Department of Perinatology and Gynecology, Kagawa University School of Medicine

キーワード :

【緒言】
内臓逆位の発生頻度は8,000〜10,000出生に1と言われている1）．先天性心疾患を合併する頻度は,内臓正位の場合1％未満であるのに比して,右胸心を伴った内臓逆位の場合3〜5％と高い1）．位置異常を認めた場合,心奇形を合併しているかどうかが重要である．今まで出生前2次元超音波検査の報告はあるが2）3）,3D/4D inversion modeを用いた報告はない．今回我々は,2次元超音波検査で内臓逆位が疑われた症例に対して3D/4D inversion modeを用いることで,位置関係の把握に有用であった症例を経験したので報告する．
【症例】
患者は29歳,1経妊1経産．家族歴に特記すべきことなし．妊娠初期より当院にて経過観察をしていた．妊娠21週に2次元超音波検査にて,心臓・胃胞を胎児躯幹右側に認め,内臓逆位を疑った．妊娠24週5日に大学病院を紹介受診し,2次元超音波検査で胎児躯幹右側に胃・脾臓,左側に肝臓を認めた．心臓は正常の位置と鏡面像であり右胸心を呈していたが,心奇形は認めなかった．通常の3次元超音波検査では,頭蓋内・胸腔内・腹腔内の液体貯留のある構造物の描出は困難である．しかし,inversion modeを用いることで,心臓内の腔・血管・胃・膀胱などの無エコーの構造物が,エコーのある構造物のように描出される．そのため,3D/4D inversion modeを用いることで,鏡面像の心臓構造,脊椎,躯幹右側にある胃の空間的な位置関係がより明確に描出された．特に3D inversion modeでは位置関係や血管の走行の表示が容易であり,大血管との位置関係の理解に有用であった．妊娠経過は良好で,妊娠40週6日,3554g,Apgar score 1分後9点,5分後9点の女児を経腟分娩した．出生後の超音波検査やＸ線写真で,鏡面像を呈する心臓,躯幹左側に肝臓,右側に胃・脾臓を認めた．以上の所見からの右胸心を伴った完全内臓逆位と診断し,出生前診断と合致した．
【結論】
3D/4D inversion modeを用いることで,液体が貯留している構造物を描出でき,心臓の構造や流出血管の位置関係の把握に有用である．完全内臓逆位の症例でinversion modeを用いることで,2次元超音波検査よりも視覚的な理解に有用であった．
【参考文献】
1）寺本憲司,小原範之,寺島和浩：妊娠後期に超音波断層法により疑われた胎児の完全内蔵逆位症の一例2000;43:32-36．
2）N.OHARA, K.TERAMOTO : Situs inversus with dextrocardia diagnosed in the third trimester. Obstetric case reports. 2002;317-318
3）A Bernasconi, A Azancot, :Fetal dextrocardia:diagnosis and outcome in two tertiary centres.2005;1590-1594