Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
産婦人科:その他

(S467)

出生前診断による選択的人工妊娠中絶に対する一般医師と助産師の意識に関する検討

Attitude survey of physicians and midwives about prenatal diagnosis resulting in selective abortion

張 良実, 中井 祐一郎, 福家 信二, 前田 岳史, 下屋 浩一郎

Yang Sil CHANG, Yuichiro NAKAI, Shinji FUKE, Takeshi MAEDA, Koichiro SHIMOYA

川崎医科大学産婦人科

Department of obstetrics and gynecology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景と目的】
昨今,超音波による診断技術の向上により,早期の胎児異常に関する出生前診断が可能となってきた.その結果,胎児異常を理由とした人工妊娠中絶が行われているのが現状である.この問題は産科医と患者という当事者だけの問題ではないことは明らかであり,一般意志を明らかにすることが必要である.今回は,基本的な知識を持つと考えられる他の診療科の医師と一般助産師を対象にその意識を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】
当院の初期研修医を中心とした医師(以下A群)およびを日本助産師会岡山県支部会員の助産師20名(以下B群)を対象に,アンケート調査を行った.両群ともに症例検討会や学習会などの場において,胎児診断の結果により人工妊娠中絶に至った例などを呈示し,この問題点について議論されるテーマに関して,若干の解説を行っている.それぞれの会の終了後に,参加した医師と助産師を対象に,無記名のアンケートを行った.助産師の対象は,同様に行った.
【結果】
胎児としての生命の開始について,A群では受精卵の成立37.5%,受精卵の着床37.5%,子宮外生存が可能な時期が22.5%と大きく分かれたのに対し,B群では,60.0%,25.0%,10.0%と受精卵の成立をもって胎児の生命開始と回答した者が大部分であった.一般的な中絶についての意識としては,母体外生存が不可能な段階ではやむを得ないとするいわば“必要悪的な認識”をする者がA群では77.5%,B群では70.0%とも大部分であった.非選択的人工妊娠中絶については,女性の権利として自由に認められるべきであるとする者が各々35.0%,30.0%,胎児生存権も認めるとする者が各々25.0%,40.0%とB群では胎児生存権を認める傾向が高かった.選択的人工妊娠中絶については,非選択的なものに比べ,逆に問題があるとの回答は各々50.0%,35.0%であり,非選択的人工妊娠中絶に比べ合理的であるとの回答は各々25.0%,15%に過ぎなかった.但し,B群ではこの設問に対しては返答しなかった者が10.0%存在した.胎児の権利の代行者としては,母親が36名,16名,父親が26名,15名,人工妊娠中絶を実施する医療者9名,4名,行政職員1名,1名,法律とその背後にある市民の意志4名,4名,返答無しが2名,0名であった(複数回答可).具体的な例を想定したwrongful birthに関する設問では,50%,40%が訴えを棄却すべきであると回答した一方,診断を受ける権利を奪われたための慰謝料が必要と回答は37.5%,55.0%にのぼった.また,wrongful lifeについては,訴えを棄却されるべきであるという回答が過半数 (72.5%,90%)であったが,賠償されるべきであるとの回答も22.5%,10.0%あった.
【考察】
胎児の生存権と人工妊娠という女性の行動決定との相克に関して,医師に比べて助産師の方が胎児の生存権を認める傾向が高かった.しかしながら,母体外生存不可能であれば中絶を是とするなど,現実的な意識も目立った.また,wrongful birthやwrongful lifeに関する権利主張についても積極的に肯定する者もあり,医師においては胎児の生命について多彩な意見が確認された.