Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
産婦人科:婦人科腫瘍

(S463)

時間を置いた超音波検査の施行で診断し腹腔鏡下に確認した子宮内膜症性嚢胞破裂の一例

An example of the rupture of endometrial cyst which was diagnosed by the ultrasound examination at intervals and was confirmed by laparoscope

長島 稔, 石川 哲也, 奥山 亜由美, 田中 可子, 太田 創, 飯塚 千祥, 市原 三義, 森岡 幹, 長塚 正晃, 岡井 崇

Minoru NAGASHIMA, Tetsuya ISHIKAWA, Ayumi OKUYAMA, Kanako TANAKA, Hajime OTA, Chiaki IITSUKA, Mitsuyoshi ICHIHARA, Miki MORIOKA, Masaaki NAGATSUKA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Obstetrics & Gynecology, Showa University

キーワード :

【症例】
26歳,0経妊0経産.
【既往歴・家族歴】
特記事項なし.
【現病歴】
以前より急性腹症にて婦人科受診歴があり,子宮内膜症性嚢胞を指摘されていた.前医では手術をすすめられており他院へ紹介される予定となっていた.平成23年10月夕方急性腹症が出現したため,同日夜間に当院救急外来を受診した.月経周期28日型・順,月経1日目.体温36.8℃,血圧102/63mmHg,脈拍86回/分,妊娠反応陰性.下腹部を中心に圧痛あり,腹膜刺激症状なし.経腟超音波検査では長径6cm大の子宮内膜症性嚢胞を認めたがecho free spaceは認められなかった.嚢胞部分に一致して圧痛を認めた.来院時に他院への紹介状を持参しており,紹介状に添付された骨盤MRI画像で同サイズの子宮内膜症性嚢胞を確認した.身体所見及び超音波所見から子宮内膜症性嚢胞破裂を疑ったが診断には至らなかったため,初診の1時間後,再度経腟超音波検査施行した.子宮内膜症性嚢胞が明らかに縮小しており,echo free spaceの存在も認めたため子宮内膜症性嚢胞破裂と診断した.腹部症状が持続していたため緊急腹腔鏡下手術を行った.
【術中所見】
腹腔鏡下に腹腔内を検索し,血性腹水および縮小した子宮内膜症性嚢胞及びその破裂部位を確認した.子宮内膜症性嚢胞摘出術を施行し手術終了とした.術後経過は順調で術後5日目に退院となった.
【考察】
婦人科急性腹症における子宮内膜症性嚢胞破裂は他疾患との鑑別が困難な疾患であり,また発症が比較的稀なことから診断法や取り扱いに関しての報告は少ない.臨床的には異所性妊娠,卵巣嚢腫茎捻転,卵巣出血などとの鑑別を要するが,子宮内膜症性嚢胞破裂に特異的な臨床症状はなく,診断はしばしば困難である.多数例で行った過去の検討では術前診断の正診率は40%程度であったと報告され,術前診断が難しいことを表している.破裂は月経周期のいずれの時期にも起こり,性交などの物理的なエピソードを除くと発症のタイミングを特定できることは少ない.初期検査としては経腟超音波検査が施行されることが多く,診断には子宮内膜症性嚢胞に特徴的なスキャーターを有する嚢胞と腹腔内に貯留したその内容液によるecho free spaceが重要となる.しかし,過去の報告ではecho free spaceの描出による診断率は60%であり,echo free spaceを認めない場合でも嚢胞壁の緊満感の低下から子宮内膜症性嚢胞破裂を疑うことが必要である.また,未破裂時の超音波所見と比較できれば嚢胞形状の変化などから診断が可能となる.一方,緊急度を勘案して必要に応じて骨盤MRI検査を行うことも診断に有用である.骨盤MRI検査でも超音波検査と同様に,嚢胞壁の緊満感の欠如とT1・T2強調像でiso-high intensityを示す腹腔内貯留液の存在が子宮内膜症性嚢胞破裂を疑う根拠となる.さらに骨盤造影MRI検査を行うことで卵巣膿瘍や卵巣悪性腫瘍との鑑別も精度が高まる.子宮内膜症性嚢胞破裂における血液検査上の特徴的な変化としてCA125値の上昇があげられる.しかし本症例ではCA125 値は50U/mlで,軽度上昇しているのみであった.CA125値の上昇は嚢胞内容の流出による直接的な腹膜刺激や嚢胞内容自体に含まれたCA125の腹膜への浸透より起こり,嚢胞の内容量や検査時期によって左右されるためそのような結果になったと考えられた.今回の症例は急性腹症で救急外来を受診したため,当院では初診であった.そのため,超音波検査を時間を置いて繰返し行い,嚢胞の形状変化を確認することで子宮内膜症嚢胞破裂の診断を下すことができた.
【結論】
経時的に超音波検査を施行しそれらの所見を比較することで術前正診率が向上すると思われる.