Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
消化器:肝・3 D

(S449)

Virtual laparoscopy: Fly Thruからみた肝表面性状によるびまん性肝疾患診断の試み

Virtual laparoscopy:demonstration of liver surface image by novel technique “Fly Thru”

関本 匡1, 丸山 紀史1, 近藤 孝行1, 嶋田 太郎1, 高橋 正憲1, 亀崎 秀宏1, 横須賀 收1, 野辺 浩枝2, 多賀 雅美2, 嶺 喜隆3

Tadashi SEKIMOTO1, Hitoshi MARUYAMA1, Takayuki KONDOU1, Tarou SHIMADA1, Masanori TAKAHASHI1, Hidehiro KAMEZAKI1, Osamu YOKOSUKA1, Hiroe NOBE2, Masami TAGA2, Yoshitaka MINE3

1千葉大学医学部附属病院消化器内科, 2東芝メディカルシステムズ株式会社営業本部, 3東芝メディカルシステムズ株式会社超音波事業部

1Department of gastroenterology, School of medicine, Chiba University, 2Sales Division, Toshiba Medical Systems Corporation, 3Ultrasound Systems Division, Toshiba Medical Systems Corporation

キーワード :

【目的】
Fly Thru(東芝)は,表面構造を離れた視点から観察する目的で開発された最先端のリアルタイム超音波映像法である.内腔側からみた管腔壁の性状が映像化されることから,腹部領域では消化管や血管,胆管病変に対する適用を想定して導入された.今回我々は,Fly Thruを肝表面の観察手法として応用し,びまん性肝疾患の診断における本法の有用性を検討した.
【方法】
腹水を有する8症例を対象とした.すなわち,正常肝例2例(62〜71歳,男性1,女性1;癌性腹膜炎による腹水例2),非硬変性慢性肝疾患1例(64歳,男性1,女性0;原発性胆汁性肝硬変・ScheuerⅡ),肝硬変5例(53〜68歳,男性4,女性1;HCV4,HBV1,Child Pugh A1,B1,C3)である.なお,肝硬変症の1例は,肝左葉に肝表面から突出した30mm大の肝細胞癌を伴っており,その腹腔内破裂にて入院となった症例である.超音波装置は,APLIO500(東芝),コンベックス型三次元専用プローブ(PVT-675)を使用し,走査角は75度,Resolution 4に設定した.右肋間,右季肋下あるいは心窩部縦走査で,腹水を介して肝実質を描出し,約5秒間の呼吸停止下で,自動扇状走査により対象画像を撮影し3D volume dataとして保存した.本dataを元にFly Thru softwareを起動し,transparency 20,fliter 2の条件にて肝表面構造を観察した.さらに客観性を確認する目的で,2名の読影者による盲検判定を施行した.すなわち,臨床情報無しに静止画および動画を読影し,肝表面性状を4段階(平滑,軽度の凹凸,高度の凹凸,腫瘤の存在)にて評価した.
【結果】
1.肝表面構造の映像化:肝表面構造は全例で映像化された.Fly Thruによる肝表面構造の映像化に要する時間は,1例あたり約5分であった.なお腹水量は,腹壁と肝表面間の距離で検討すると2〜5cmであった.2.肝表面性状の評価:正常肝例では肝表面が平滑な構造として映像化された.また非硬変性慢性肝疾患例では肝表面における軽度の凹凸の存在が表現された.一方,肝硬変例では肝表面における大小不同の多数の凹凸の存在が確認され,非硬変例に比べて明らかに進行した変化であることが容易に把握できた.とくにB型肝硬変例では,粗大な結節状の凹凸が肝表面にびまん性に観察された.一方,C型肝硬変例の肝表面は,B型例より比較的小径で高低の少ない凹凸像として観察され,両者の病理学的特徴の差を反映したものと考えられた.また,腫瘍を合併した1例では,肝表面からドーム状に突出した腫瘤の存在が明瞭に描出された.読影者による盲検判定でも,正常例における平滑な表面構造と肝硬変例における凹凸の存在が指摘された.一方,非硬変性慢性肝疾患例における軽度の凹凸については,平滑な肝表面構造との鑑別が困難であり,比較的軽微な凹凸変化の映像表現には改良の余地があるものと思われた.しかし,2名の読影結果は7/8例で一致(κ0.9429)しており,本映像が客観性に優れることは明らかであった.
【考察】
以上のように,Fly Thruは,肝表に少なくとも2cmの腹水が存在する場合,肝表面構造の評価に応用可能であり,いわゆるVirtual laparoscopyとしての役割を果たした.その映像は客観性にも優れ,肝疾患進行度が形態的に分かりやすく表現された.一方,現時点では凹凸の有無や程度に限った映像が得られる.今後,輝度情報などを加味した映像法に進化することで,本法が精密検査としての有用性を獲得するものと思われる.
【結語】
Fly Thruは有腹水例における肝表面構造の評価にも応用可能で,いわゆるVirtual laparoscopyを実現した.本法は,びまん性肝疾患に対する新たな診断法として期待される.