Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
消化器:肝・Elastography 2

(S432)

Elastographyの消化器外科領域への臨床応用と問題点-消化器外科医の使用経験

Clinical application and problem of Elastography for gastroenterological surgery - experience of gastroenterological surgeon

杉本 博行

Hiroyuki SUGIMOTO

名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学

Department of Gastroenterological Surgery(Surgery II), Nagoya University

キーワード :

【はじめに】
触診は重要な診断法であるが硬さの評価は客観性に乏しくその診断能は限られていた.Elastographyは硬さを画像化できる画期的な診断装置として開発され臨床応用が進んだが,当初想定されていなかった領域への応用や新機種の開発がかえってElastographyという診断法の混乱を招いている.今回,当科におけるElastographyの使用経験から現在のElastographyの臨床上の問題点を挙げる.
【肝腫瘍診断】
Real-time Tissue Elastographyの乳腺領域における臨床応用報告以後,消化器外科領域への応用を目指し2005年から検討を開始した.装置は日立EUB8500を使用し当初体外式にリニアプローブを用い肝硬変診断への応用を試みたが正常肝でも肝実質は一様な硬さ表示とはならず,肝硬変との鑑別が困難であった.一方転移性肝癌は肝実質に比し青く表示されその有用性を報告した.しかしリニアプローブでは深さ4cm程度までしか診断できず,また体表からの圧迫では安定した画像が得られなかったため術中使用で検討した.正常肝は比較的一様な内部構造となっており外科医が硬い腫瘍と認識する転移性肝癌は明瞭な硬い結節(青)で表示され安定した画像を得,肝腫瘍鑑別診断におけるElastographyの有用性を報告した(Liver International 28; 1264-1271: 2008).
【肝腫瘍鑑別診断における体外式の問題点】
深部(4cm以上)の結節評価が困難であったが,深部用リニアプローブが開発された.しかし術中画像に比べ安定した画像を得ることが困難であった.次いでelastography対応コンベックスプローブが開発され体外式でも安定した画像が得られるようになったが,圧迫が困難であり,ROI両端の結節の評価が問題であった.
【Real-time tissue elastographyによる肝線維化診断】
前述の如く初期の機種では安定した画像を得ることは困難であり術中使用経験のある外科医からみると開腹可能な程度の肝硬変においては正常肝との肉眼的な違いを観察することは困難であった.その後,深部エラストの出現や画像解析ツールの開発により肝線維化診断に有用との報告が見られる.しかし,Real-time tissue elastographyは相対的な硬さの評価は可能であるものの絶対値での評価はできない.現在報告されている肝線維化診断は肝実質内にROIを置いた評価であり,肝と周囲組織の硬さに違いを評価しているものではない.肝硬変の“硬さ”を評価しているという誤解を生じやすいがこれは肝実質の“まだら度”をRe評価しているにすぎない.
【“硬さ”の絶対値評価】
ARFI, Supersonic imagineなど “硬さ”を絶対値で評価する機種が開発された.しかしそれぞれ測定原理が違い,“硬さ”の表示もm/sやkPaなど装置によって違う.物理学的な知識のない消化器外科医にとって,“硬さ”の単位がいくつもでてくることに違和感を感じる.また,m/sとkPaは簡便な式を用いることにより換算できるという報告も散見されるが,臨床現場での測定値は必ずしも一致しない.そもそも,日常臨床において“硬さ”の絶対値評価になじみがない.
【結語】
Elastographyの使用経験を有する外科医の立場から,触診に変わる重要な診断ツールであるElastographyの現状の問題点につき報告した.今後,触診不可能な腹腔鏡手術がさらに発展する現代におき硬さを画像化できるElatographyのさらなる進歩が期待される.