筒井 英明¹, 畠 二郎², 眞部 紀明², 石井 学¹, 山下 直人³, 今村 祐志², 楠 裕明³, 春間 賢¹

Hideaki TSUTSUI¹, Jiro HATA², Noriaki MNABE², Manabu ISHII¹, Naohito YAMASHITA³, Hiroshi IMAMURA², Hiroaki KUSUNOKI³, Ken HARUMA¹

¹川崎医科大学消化管内科, ²川崎医科大学検査診断学（内視鏡・超音波）, ³川崎医科大学総合臨床医学

¹Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, ²Division of Endoscopy and Ultrasonography, Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, ³Department of Health Care Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景と目的】
一般的な嚥下機能評価法として嚥下造影検査（videofluorography: VF）が用いられているが,検査設備,被曝などの制約がある．超音波検査は頚部領域における非侵襲的かつ簡便な画像診断法として重要である．他方,循環器領域において組織ドプラ法（Tissue Doppler Imaging: TDI）はその有用性が高く評価されているが,同手法を頚部食道運動機能評価に臨床応用した報告は皆無に等しい．以前われわれは,TDIにより測定される頸部食道壁の弛緩時間と,VFにより評価できる喉頭挙上開始から食道入口部最大開大までにおける時間との間に正の相関関係が認められる（r=0.72, p＜0.01）と報告した．その後の検討により,1） 同手法とthe combined multichannel intraluminal impedance and manometry （MII-EM）による食道内圧検査との比較検討,2） 若年者 （60歳未満）および高齢者 （60歳以上）の頸部食道の運動機能の差を検討し,TDIを用いた頸部食道運動機能検査の臨床的意義を明らかにする．
【対象】
健常者62名（男性24例,女性38例,経筋年齢57.7±14.7歳）
【方法】
使用機種は東芝SSA-790A,プローブは8MHzリニアである．被検者は坐位とし,輪状咽頭筋の尾側端から約1cmの部位における頚部食道短軸像を描出し測定部位とした．約5ccのゼリーを5回坐位にて嚥下する際の頚部食道運動をTDIにより観察した．画像はraw dataとして機器のメモリに保存し,機器内臓の解析ソフトで画像解析を行った．また,62名においては,超音波検査との比較検討を目的として,食道内圧検査を施行した．
【結果】
全例において,TDIによる頚部食道壁運動の定量的評価が可能であった．指標となりうるパラメータとして,移動距離波形 （displacement）のピーク値の最大移動距離,また移動速度波形（velocity）において,弛緩の速度波形が陽性波,収縮の速度波形が陰性波を認め,それぞれ弛緩時間,収縮時間,弛緩速度,収縮速度などの測定が可能であった．平均57.8才の健常者62例における最大移動距離は,3.7±1.6 （mm）,弛緩時間が567±105 （ms）,収縮時間が616±273 （ms）,弛緩速度が15.8±5.4 （mm/s）,収縮速度が13.5±5.5 （mm/s）であった．性差間に有意差は認められなかった．60歳未満および60歳以上の比較検討において,高齢者の最大移動距離は,若年者と比較し有意に短かった（p＜0.01）．高齢者の収縮速度は,若年者と比較し有意に遅かった（p＜0.01）．高齢者の弛緩速度および弛緩時間は,若年者と比較し有意差は認められなかった（p＞0.05）．またTDIの収縮速度は,食道内圧検査における嚥下後の上部食道括約筋 （upper esophageal sphincter: UES）のpeak pressure （嚥下圧） との間に正の相関が見られた（r=0.52, p＜0.01）
【結語】
TDIを用いた頸部食道運動機能の評価は,簡便で非侵襲的に検査が施行でき,今後高齢者に認められる嚥下機能低下のスクリーニング検査として期待できると思われる．