Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
消化器:消化管1

(S419)

十二指腸上行部に主病変を認めた悪性リンパ腫の一例

A case of malignant lymphoma in the fourth portion of the duodenum.

麓 由起子1, 畠 二郎2, 竹之内 陽子1, 中武 恵子1, 谷口 真由美1, 岩井 美喜1, 小島 健次1, 眞部 紀明2, 今村 祐志2, 春間 賢3

Yukiko FUMOTO1, Jiro HATA2, Yoko TAKENOUCHI1, Keiko NAKATAKE1, Mayumi TANIGUCHI1, Miki IWAI1, Kenji KOJIMA1, Noriaki MANABE2, Hiroshi IMAMURA2, Ken HARUMA3

1川崎医科大学附属病院中央検査部, 2川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 3川崎医科大学消化管内科学

1Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital, 2Division of Endoscopy and Ultrasound, Department of Clinical pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
十二指腸悪性リンパ腫は消化管悪性リンパ腫の約1〜4%と比較的まれな疾患であり,体外式超音波による報告は皆無に等しい.体外式超音波が質的診断に有用であった十二指腸上行部に主病変を認めた悪性リンパ腫の一例を報告する.
【症例】
50歳代男性.主訴・既往歴に特記すべきことなし.他院で健診目的にて施行された上部消化管内視鏡検査において十二指腸下行部に潰瘍性病変を認めたため全身精査目的でCT検査を施行.十二指腸上行部に約5 cm大の腫瘤を指摘され精査加療目的で当院へ紹介受診となった.
【身体所見】
身長172cm,体重66kg,体温35.0℃.身体所見に特記すべき異常所見なし.
【血液・生化学検査所見】
入院時血液・生化学検査においてAMY(321IU/L),可溶性インターロイキン2レセプター(657U/mL)の上昇を認めた.
【造影CT所見】
膵背側-腹部大動脈腹側に腫瘤性病変を認め複数の腫瘤が一塊になったように見られた.腫瘤内には上腸間膜動脈が貫通しているが有意狭窄像は指摘できず.周囲には多数のリンパ節を認め,腸間膜にも小リンパ節が散見.以上より悪性リンパ腫が疑われた.また腫瘤は空腸に接しており空腸由来の病変である可能性も疑われた.
【FDG PET-CT所見】
上腸間膜動脈近傍にFDGの高集積を認めた.
【体外式超音波所見】
腹部大動脈を超えた十二指腸上行部に約4 cmの範囲で片側性に層構造の消失した壁肥厚を認め,エコーレベルは均一な低エコーとして描出された.周囲リンパ節は著明に腫大し,小腸腸間膜にも軽度のリンパ節腫大を認めた.膵臓への浸潤は認められなかった.カラードプラにおいて血流シグナルを認めドプラ波形上,PI値は1.3と低値であった.またエラストグラフィーでは正常壁のストレイン値を病変部のストレイン値で除した値(ストレイン比)を算出すると2.9であり通常の上皮性癌に比し柔らかい腫瘍であると思われた.以上のことより超音波上は悪性リンパ腫が疑われた.
【小腸造影所見】
病変はトライツ靭帯付近の腸管に約6 cmの幅で片側性に存在.口側はケルクリングが観察されるが,肛門側はケルクリングが消失し立ち上がりが急峻な形態を呈していた.
【小腸内視鏡所見】
十二指腸水平部中央より肛門側に中央に不整な潰瘍面を有する隆起性病変を認め表面は白苔で覆われていた.主病変近傍およびVater乳頭近傍には白色顆粒状粘膜を認めた.
【病理組織学的所見】
生検が施行され十二指腸粘膜にはリンパ球が多数見られ,一部で極性の不明瞭な濾胞構造を認めた.免疫染色の結果CD 10, CD 20, bcl-2(+) CD 3, CD 5, cyclin D1(-)であり濾胞性リンパ腫と診断された.また潰瘍を形成した部分において大型リンパ球の小集簇があり,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫様に見える部分があった.
【経過】
化学療法(R-CHOP)を施行.2コース終了後のPET-CT検査においてFDGの高集積は認められなかった.
【まとめ】
本症例の超音波像は①十二指腸上行部に限局性の壁肥厚②壁のエコーレベルは均一な低エコーで,層構造は消失③エラストグラフィー上は通常の上皮性癌に比し比較的軟らかい腫瘍であったが,これらの所見は消化管の他の部位に発生する悪性リンパ腫のそれと同様と考えられた.また,体外式超音波検査は消化管壁および周囲組織の構造を高分解能な画像で評価することが可能であり,本疾患の存在ならびに質的診断に有用であると考えられた.