西村 純子¹, 田中 弘教^{1, 2}, 吉田 昌弘¹, 橋本 眞里子¹, 柴田 陽子¹, 東浦 晶子¹, 山平 正浩¹, 廣田 誠一³, 西口 修平², 飯島 尋子^{1, 2}

Junko NISHIMURA¹, Hironori TANAKA^{1, 2}, Masahiro YOSHIDA¹, Mariko HASHIMOTO¹, Youko SHIBATA¹, Akiko HIGASHIURA¹, Masahiro YAMAHIRA¹, Seiichi HIROTA³, Syuhei NISHIGUCHI², Hiroko IIJIMA^{1, 2}

¹兵庫医科大学超音波センター, ²兵庫医科大学内科・肝胆膵科, ³兵庫医科大学病院病理部

¹Department of Ultrasound Imaging Center, Hyogo College of Medicine, ²Department of Internal Medicine, Division of Hepatobiliary and Pancreatic Disease, Hyogo College of Medicine, ³Department of Surgical Pathology, Hyogo College of Medicine

キーワード :

【目的】
Virtual Touch Tissue Quantification（VTTQ）による肝硬度測定は,肝線維化診断に有用であるが,脾硬度測定も可能である．脾硬度は門脈圧亢進に伴い上昇すると予測されるため,肝線維化進展度診断のみならず,門脈圧亢進症の合併症である食道静脈瘤診断も期待されるとの報告もある．今回,慢性肝疾患患者に対しVTTQを用いて測定した脾硬度の,肝線維化および食道静脈瘤予測における意義を検討した．
【対象】
2010年12月から2011年10月に脾臓および肝臓のVTTQを同時に施行した慢性肝疾患患者288例,正常ボランティア10例の計298例を対象とした．このうち1年以内に肝生検を施行した145例（F0,20例; F1,52例; F2,23例; F3,26例; F4,24例）は肝線維化ステージと検討を行った．また上部消化管内視鏡検査を施行した92例（F0,44例; F1,32例; F2,16例; F3,0例）は食道静脈瘤（EV）の形態（Form）と検討を行った．
【方法】
持田シーメンス ACUSON S2000を使用し,脾臓と肝臓のせん断弾性波速度（Vs値;m/s）を安定して測定できた5回の平均値を求めた．この脾Vs値と肝Vs値,肝線維化ステージおよびEV形態,Spleen index（SI;千葉大学第一内科の式,cm2）等の臨床パラメータを比較検討した．脾腫はSI 20以上とした．また,各臨床パラメータと肝線維化ステージおよびEV形態との関連をReceiver operating characteristic（ROC）解析により検討した．
【結果】
肝線維化ステージ別の脾Vs値はF0,2.36±0.38; F1,2.44±0.39; F2,2.64±0.47; F3,2.52±0.45; F4,3.30±0.46であり,F0〜3とF4に有意差を認めた（p＜0.001）．肝硬変（F4）の診断能を各臨床パラメータについて検討したところ,曲線下面積（AUROC）はそれぞれ脾Vs値,0.912; 肝Vs値,0.906; 血小板数,0.862; SI,0.819; ヒアルロン酸,0.956,特に脾Vs値と肝Vs値,ヒアルロン酸では0.9以上と良好な結果であった．EVのForm別の脾Vs値はForm0, 2.61±0.47; Form1, 3.14±0.51; Form2, 3.47±0.48であり,Form0〜1とForm2では有意差を認めた（p＜0.001）．EV存在診断能（Form1以上）および治療適応EV診断能（Form2以上）を各臨床パラメータについて検討したところ,AUROCはそれぞれ脾Vs値:0.816, 0.803,肝Vs値:0.809, 0.797,血小板数:0.784, 0.708,SI:0.825, 0.751,ヒアルロン酸:0.766, 0.822と,EV存在診断では脾および肝Vs値,SIが,治療適応EV診断では脾Vs値とヒアルロン酸がそれぞれ良好な結果を示した．脾臓のVs値と各臨床パラメータとの相関について検討したところ,ヒアルロン酸（r=0.401, p＜0.001）,肝Vs値（r=0.379, p＜0.001）,血小板数（r=-0.292, p＜0.001）,SI（r=0.291, p＜0.001）,APRI（r=0.287, p=0.003）で相関を認め,特にヒアルロン酸と肝Vs値が比較的良好な相関を示した．ASTとALT,T-Bil,Alb,PT（％）,年齢,Body Mass Indexとは相関を認めなかった．
【結語】
VTTQによる脾Vs値は肝線維化ステージや食道静脈瘤の進展に伴い増加し,肝線維化診断のみならず食道静脈瘤の存在診断および治療適応判定にも有用であった．