Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
血管:頸動脈

(S397)

側頭動脈炎の超音波所見

Ultrasound image of temporal arteritis

津田 恭子, 紺野 啓, 鯉渕 晴美, 宮本 倫聡, 神田 美穂, 松永 宏明, 藤井 康友, 谷口 信行

Kyoko TSUDA, Kei KONNO, Harumi KOIBUCHI, Michiaki MIYAMOTO, Miho KANDA, Hiroaki MATSUNAGA, Yasutomo FUJII, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of medicine

キーワード :

【はじめに】
側頭動脈炎は,日本では稀な,中・大動脈に生じる慢性の炎症性疾患である.側頭動脈炎の特徴的な超音波所見は,haloと呼ばれる,血管内腔周囲の低エコー部の存在と,血管の狭窄・閉塞とされている.今回,我々は,超音波像と典型的な組織像が得られた側頭動脈炎の症例を経験したため,その両者を比較検討し,文献的考察を加え報告する.
【症例】
78歳,女性.2ヵ月前より,両頚部および後頭部の痛みを自覚しており,精査のため当院を紹介受診した.初診時,両頚部および後頭部の痛の痛み,5Kgの体重減少を認めたが,顎跛行,視覚障害,リウマチ性多発筋痛症の症状は認めなかった.身体所見上,側頭動脈の圧痛は認めなかったが,側頭動脈は結節状に触知された.血液検査では,赤沈(1時間値) 108mm,CRP 6.35mg/dlと上昇を認めたが,抗核抗体,抗CCP抗体,p-ANCA,c-ANCAなどの自己抗体は陰性であった.超音波検査では,両側の側頭動脈の血管内腔周囲に0.8〜1.3mmの低エコー部を認め,その末梢側の血管は閉塞していた.以上の所見より,側頭動脈炎が疑われ,側頭動脈の炎症部分を同定後,超音波検査下にマーキングを行い,右側頭動脈より生検を行った.組織学的検査では,側頭動脈の中膜のうち内膜寄りに,巨核球を伴ったびまん性の単核球浸潤を認めた.また,内膜は繊維性に肥厚し,血管内腔は著しく狭小化しており,断面積にして90%以上の狭窄を認めた.内弾性板は重層化し,虫食い状に断裂していた.以上の組織学的所見は,側頭動脈炎の典型的な像であり,ステロイド内服治療を開始した.
【考察】
側頭動脈炎の特徴的な超音波所見は,haloと呼ばれる,血管内腔周囲の低エコー部の存在である.haloは血管壁の浮腫により引き起こされると考えられ,厚みは0.3〜2.0mm程度と報告されているが,我々が調べ得た範囲では,haloが組織学的に血管壁のどの部分の変化に相当するかの報告はない.本例では,繊維性に肥厚した内膜と炎症性に肥厚した中膜を合わせた厚みは0.8〜1.2mm程度であり,固定後のプレパラートによる検討ではあったが,超音波検査におけるhaloの厚みにほぼ一致し,haloが肥厚した内膜と中膜を合わせた部分を示している可能性が示唆された.また,Schmidtらは,側頭動脈炎の患者30人中,22人にhaloを認め,24人で血管の狭窄または閉塞を認め,28人で両者のいずれか一方を認めたと報告しており,側頭動脈炎では血管の狭窄と閉塞も特徴的な超音波所見とされている.本例では,haloと動脈の狭窄の両方の所見を認めていることより,典型的所見と考えられた.また,側頭動脈炎には,失明のリスクがあり,迅速に診断し,治療を開始する必要がある.現時点における本症の診断のgolden standardは生検であるが,病変が非連続性に分布することがあるため標本に病変が含まれず,結果が偽陰性になることがある.超音波検査では,側頭動脈の全域を観察することが可能であるため,本症が疑われる症例においては積極的に超音波検査を施行し,生検の適応を判断するとともに適切な生検部分を決定することが非常に重要であると考えられる.