宇都宮 裕人, 日高 貴之, 國田 英司, 土肥 由裕, 小田 登, 西岡 健司, 栗栖 智, 中野 由紀子, 山本 秀也, 木原 康樹

Hiroto UTSUNOMIYA, Takayuki HIDAKA, Eiji KUNITA, Yoshihiro DOHI, Noboru ODA, Kenji NISHIOKA, Satoshi KURISU, Yukiko NAKANO, Hideya YAMAMOTO, Yasuki KIHARA

広島大学大学院　医歯薬学総合研究科循環器内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Hiroshima University Graduate School of Biomedical Sciences

キーワード :

【目的】
大動脈弁狭窄症（AS）は代償性左室肥大から左室拡張機能障害をきたしうる．一方で,有意な弁狭窄でなくとも大動脈弁石灰化（AVC）は心不全を含む心血管イベントのリスクを上昇させることが知られている．今回我々は,AVCと左室形態および左室拡張機能との関連性について検討した．
【対象と方法】
左室収縮能が保持（駆出分画≥50％）された529例（男性351例,平均66 ± 10歳,AS 26例）を対象に心臓CT検査を施行．左室重量,容積をsummation of disk法で計測し,左室重量/容積比を算出した．単純CTからAgatston法にてAVCスコアを計測した．CTから1週間以内に経胸壁心エコー図を施行した421例については,心尖部四腔断面で組織ドプラ法を用いて僧帽弁輪部速度波形を描出し,拡張早期速度（Ea）を左室拡張能の指標として計測した．また,左室重量係数＞ 49g/m^2.7かつ相対的左室肥厚≥0.43を求心性肥大と定義した．
【結果と考察】
AVCは270例（51％）に認めた．AVC群はより高齢で左室重量係数が大きく（45 ± 14 vs. 41 ± 13 g/m^2.7, p = 0.002）, 左室重量/容積比が高く（1.9 ± 0.7 vs. 1.7 ± 0.6 g/ml, p ＜ 0.001）, 求心性肥大の形態を示す比率が有意に高かった（17.6 vs. 8.2 ％, p = 0.005）. また,AVC群では左室流入血流E/A比低下（0.9 ± 0.4 vs. 1.1 ± 0.4, p ＜ 0.001）, 肺静脈血流S/D比上昇（1.6 ± 0.5 vs. 1.3 ± 0.4, p ＜ 0.001）, E/Ea比上昇 （13.1 ± 4.8 vs. 10.3 ± 3.6, p ＜ 0.001）を認めた．多変量解析にて,年齢,性別,BMI, 血圧,脈拍,糖尿病,内服薬,冠動脈硬化度等で調整後も,AVCスコアは左室重量係数（標準化β 0.21, p ＜ 0.001）, 左室重量/容積比（標準化β 0.16, p = 0.001）, および求心性肥大（オッズ比 1.88, 95％CI 1.31-2.69, p = 0.001）と関連を認めた．さらに,重回帰分析を用いて検討したところ,AVCスコアは年齢,拡張期血圧と共にEaを規定する因子であった（中隔Ea: 標準化β -0.13, p = 0.012; 側壁Ea: 標準化β -0.17, p = 0.004; 図,Model 3）. 左室重量/容積比で調整後もこの関連性は有意だった（図,Model 4）.
【結論】
AVCは,左室重量/容積比上昇および求心性肥大と関連し,左室拡張機能を規定する．AVCと拡張機能の関連性は,左室重量/容積比で調整後もなお有意であることから,単に左室肥大を介した関連のみではなく,弁石灰化と拡張機能低下が同時に惹起されるような別機序の介在が推定される．