桑木 恒, 竹内 正明, 芳谷 英俊, 春木 伸彦, 大谷 恭子, 岩瀧 麻衣, 尾辻 豊

Hiroshi KUWAKI, Masaaki TAKEUCHI, Hidetoshi YOSHITANI, Nobuhiko HARUKI, Kyoko OTANI, Mai IWATAKI, Yutaka OTSUJI

産業医科大学第二内科

Department of Cardiology, University of Occupational and Environmental Health

キーワード :

【背景】
僧帽弁閉鎖不全に対する外科的治療方針を決定する際,逆流の重症度評価と共に心不全症状を有するかどうかを調査することは重要である．しかし自覚症状の有無は患者や担当医の主観的な要素の影響を受け客観性に乏しい．心エコー図検査による肺高血圧症の有無は心不全の有無を評価する際の客観的な指標の一つとして用いられているが,自覚症状と合致しない症例を経験することも少なくない．臥位自転車エルゴメータ負荷心エコー図検査（BxE）は負荷時の心血管系の客観的な指標を提供する．
【目的】
僧帽弁閉鎖不全症例にBxEを施行し,無症状の患者における運動誘発性肺高血圧,超音波肺コメットサイン（ULC）の出現頻度を検討すること．
【対象】
僧帽弁逸脱による中等度以上の僧帽弁閉鎖不全を有し,BxEを施行し得た連続33例．
【方法】
心不全症状の有無などの病歴を聴取後,その情報を知らない検者がBxEをおこなった．負荷は10Wより開始し,以後25W→50W→ 75→100Wの順に3分ごとに負荷を増大させながら,各ステージ毎に,2D画像,ドプラーエコーを施行し,三尖弁逆流より算出した推定収縮期肺動脈圧 （PAP）,ULCの有無を評価した．
【結果】
33例中,日常生活で息切れなどの症状があった有症状群は22例,無症状群は11例であった．両群間で重症僧帽弁閉鎖不全の頻度,安静時左室容量に有意差はなかった．しかし左房容量は有症状群で有意に大きく（有症状：70±25 vs 無症状：49±17 mL/m2）,安静時のPAPも有意に高値であった（有症状：42±14 vs 無症状：33±6 mmHg, p＜0.05）．BxE負荷時間や最大負荷量に両群間で有意差は認められなかった．負荷中止理由は呼吸困難が有症状群で8/22例と無症状群0/11例に比べて有意に多かったが,最大負荷時のPAP値やULCの有無に両群間で有意差を認めなかった．一方,運動負荷誘発性肺高血圧をPAP＞60mmHgと定義した場合,無症状群であっても3/11例が陽性であり,運動負荷誘発性肺高血圧の出現あるいはULC陽性を心不全症状陽性所見とすると無症状群のうち7/11例が負荷時陽性所見を呈した．
【結語】
僧帽弁閉鎖不全症例における心不全症状の有無を評価する際,無症状であっても客観的評価のために積極的に運動負荷心エコー図検査を施行する必要があると考えられた．