Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
循環器:虚血など

(S385)

ブドウ糖負荷冠血流予備能は急性冠症候群発症予測因子となりうるか?

Can Change in Coronary Flow Reserve during Acute Glucose Loading be A Predictor for Acute Coronary Syndrome?

武井 康悦, 田中 信大, 黒羽根 彩子, 高橋 のり, 山科 章

Yasuyoshi TAKEI, Nobuhiro TANAKA, Saiko KUROHANE, Nori TAKAHASHI, Akira YAMASHINA

東京医科大学循環器内科

Department of Cardiology, Tokyo Medical University

キーワード :

【背景】
糖代謝異常症の患者数は加速度的に増加している.従来の冠危険因子である糖尿病とは別に,新たな危険因子として食後などの血糖値の急激な変動が注目されている.心筋肥大や糖尿病では既に冠血流予備能(Coronary flow reserve: CFR)は低下していることは報告されている.我々は非糖尿病症例において特にインスリン抵抗性や耐糖能異常(Impaired glucose tolerance: IGT)を認める段階でも,ブドウ糖負荷による急激な血糖上昇によりCFRが一過性に低下することを報告した.しかしこのCFRの変化が冠動脈疾患発症にどのように関係するかは十分に検討されていない.
【目的】
対象領域の心筋虚血がない冠動脈に対し,ブドウ糖負荷CFR計測を施行した症例の長期的な冠動脈イベントを追跡調査すること.
【方法】
2002年から2004年までの間,非糖尿病例で対象冠動脈領域に心筋虚血を認めない冠動脈に対し75g経口ブドウ糖負荷前後のCFR変化を観察しえた66症例を平均7年間追跡調査した.CFR計測は経胸壁心エコー法を用い,安静時およびアデノシン三燐酸負荷による最大冠拡張時の拡張期平均冠血流速度の比として求めた.有意な弁膜症例,冠動脈バイパス術を既往にもつ例,血清クレアチニン1.5 mg/dl以上,左室壁厚13mm以上の心肥大例は除外としている.測定時に年齢,性別,BMI,喫煙歴,高血圧(検査前血圧140/85 mmHg以上または降圧剤治療歴を有する場合),非対象血管の冠動脈形成術歴,内服状況,脂質データ,ブドウ糖負荷前および1時間,2時間後の血糖値とインスリン値,HbA1C,血清クレアチニン値,左室収縮および左室拡張機能指標を調査した.CFRはブドウ糖負荷前(CFRb)および一時間後(CFRa)に測定し,その変化率c-CFRを求めた.対象冠動脈は左冠動脈前下行枝が58例,右冠動脈が8例であった.冠動脈イベントは対象冠動脈を責任病変とする急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症)とした.
【結果】
66例中5例(7.5%)で急性冠症候群を発症(急性心筋梗塞2例,不安定狭心症3例)した.冠動脈イベント発症をエンドポイントとして各因子について単変量解析を行うと,HbA1C(p=0.06),空腹時インスリン濃度(p=0.04),CFRb(p=0.005),CFRa(p=0.01)およびc-CFR(p=0.005)に有意な因子となった.これら5因子についてさらに多変量解析を行うと,CFRb(p=0.01)およびc-CFR(p=0.01)が急性冠症候群発症の予測因子となった.イベント予測についてROCカーブから求めたCFRbのカットオフ値を2.2とすると感度96%,特異度80%,またc-CFRのカットオフ値を-22%とすると感度71%,特異度80%であった.
【結論】
非糖尿病例において,ブドウ糖負荷前CFRとブドウ糖負荷前後のCFR変化率が従来の冠危険因子とは独立した急性冠症候群の予測因子であった.