Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S376)

ボセンタン投与により肺動脈性肺高血圧症合併妊娠の転機が改善した一例

A case of pregnancy associated with pulmonary arterial hypertension whose outcome was improved by the administration of bosentan

弘田 大智1, 山田 博胤2, 3, 西尾 進3, 平田 有紀奈3, 中川 摩耶3, 坂東 美佳2, 發知 淳子2, 冨田 紀子2, 佐田 政隆2, 3, 齋藤 憲1

Daichi HIROTA1, Hirotsugu YAMADA2, 3, Susumu NISHIO3, Yukina HIRATA3, Maya NAKAGAWA3, Mika BANDO2, Junko HOTCHI2, Noriko TOMITA2, Masataka SATA2, 3, Ken SAITO1

1徳島大学保健科学教育部, 2徳島大学病院循環器内科, 3徳島大学病院超音波センター

1School of Health Science, Tokushima University, 2Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, 3Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital

キーワード :

【はじめに】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)合併妊娠は母体死亡率が非常に高いとされていたが,ここ10年の間にPAHに対する新しい治療薬が開発され,高リスク妊娠の管理も進歩し母体死亡率は減少してきている.今回,2回目の妊娠はPAH合併のために人工妊娠中絶をしたが,その後ボセンタンを導入し,3回目の妊娠で出産をなしえた一例を経験したので報告する.
【症例】
31歳,女性.家族歴に特記事項はなし. 25歳時より混合性結合組織病(MCTD)にて少量のステロイド投与による治療中であった. 27歳時に第1子出産歴があり,産後に尿蛋白増悪と浮腫が出現したが,加療後に軽快した.その後,2007年12月に2回目の妊娠をしたが,2008年3月に労作時息切れ症状を自覚するようになり,経胸壁心エコー検査が依頼された.左室短軸断層像では,右室は拡大し,心室中隔の偏位と左室の扁平化を認めた.三尖弁逆流血流速波形のピーク速度は4.0m/sec,下大静脈径は 1.0cmであり,推定肺動脈収縮期圧は約70mmHgと中等度の肺高血圧症を呈していたため妊娠の継続は困難と判断され,人工妊娠中絶が施行された.その後も肺高血圧症の程度の改善がみられなかったため,2008年7月,ボセンタンの投与が開始された.ボセンタン投与3週間後,三尖弁逆流血流波形のピーク速度は2.5m/sec,推定肺動脈収縮期圧は約30 mmHgと軽快した.その1年後には三尖弁逆流血流速波形のピーク速度は2.3m/sec,推定肺動脈収縮期圧は約25 mmHgまで改善した.その後,本人の強い第2子挙児希望のため,2009年8月,ボセンタンが減量,中止された.2010年5月,3回目の妊娠が確認され,経胸壁心エコー検査による頻回の経過観察では,妊娠後期に三尖弁逆流血流速波形のピーク速度が3.0m/sec,推定肺動脈収縮期圧は約40 mmHgと軽度の肺高血圧を認めたものの,大きな合併症無く出産が可能であった.出産後の経過観察では,ボセンタンを使用していないにもかかわらず肺高血圧は認められていない.
【まとめ】
正常分娩,肺高血圧による人工妊娠中絶,ボセンタン治療後の正常分娩,と異なる転帰を示したMCTD合併妊娠を経験した.最近,肺高血圧誘発ラットを用いた研究で,エストロゲンを投与することにより,肺高血圧およびそれに伴う右心不全が予防できたという報告がある.肺高血圧と女性ホルモンの関連が議論されており,興味深い症例と思われたので報告する.