Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S376)

奇異な左室菲薄化を呈した心ファブリー病の一例

A strange form of cardiac wall thinning associated with Fabry disease.

米田 智也1, 牧山 武2, 土井 孝浩1, 徳重 明央2, 石井 暁美1, 岩田 邦子1, 元田 博子1, 山本 将司1, 木村 剛2

Tomoya YONEDA1, Takeru MAKIYAMA2, Takahiro DOI1, Akihiro TOKUSHIGE2, Akemi ISHII1, Kuniko IWATA1, Hiroko MOTODA1, Masashi YAMAMOTO1, Takeshi KIMURA2

1京都大学医学部附属病院検査部, 2京都大学医学部附属病院循環器内科

1Central clinical laboratory, Kyoto University Hospital, 2Cardiovascular medicine, Kyoto University Hospital

キーワード :

【はじめに】
心ファブリー病は,α‐ガラクトシダーゼA活性の遺伝的欠損により発症するX染色体劣性遺伝形式をとる先天性スフィンゴ糖脂質代謝異常症であるファブリー病の亜型であり,心障害のみを呈し,循環器領域では心肥大を生じる特定心筋症(二次性心筋症)として位置づけられている.
【症例】
症例は77歳女性.高血圧症,2型糖尿病,肥満症,うつ病にて当院老年科および糖尿病科にて加療中であった.心臓に関しては,特に自覚症状はないが,以前より心肥大を指摘されており,69歳時に他院にて心臓カテーテル検査の施行歴があるも詳細は不明であった.心・脳血管疾患の家族歴はない.今回,スクリーニング目的にて心臓超音波検査を施行したところ,心筋の壁肥厚と不均一な菲薄化を認めたため循環器内科にて精査となった.
【検査結果】
12誘導心電図検査では,左室高電位とⅠ,aVL,V2〜5で陰性T波を認めた.胸部レントゲンでは,心胸郭比54.8%,肺野に明らかな異常所見は認めなかった.血液検査結果では,HbA1c 6.2%と上昇を認めるも腎機能は保たれており(CRE 0.6mg/dl),BNP 176.9pg/mlと上昇を認めた.心臓超音波検査では,LVDd/Ds:60.6/40.6mm,IVSTd/RWTd:4.6/8.2mm,LVEF(Teichholz法):60.6%.左室前壁中隔は中部,下壁は基部と中部,後壁は基部〜中部にかけて不均一な心筋の菲薄化を認めた.左室壁は前述の菲薄化部を除き肥厚し,特に心尖部は著明な全周性の肥厚を認めた.各弁膜には加齢変化を超える器質的異常はみられず,軽微な逆流が検出されるのみであった.IVCは拡大なく呼吸性変動は良好.心嚢液は生理的範囲内.胸水は認めなかった.心臓超音波検査上は心ファブリー病または心サルコイドーシスや拡張相肥大型心筋症などが疑われた.心臓MRI検査では,LVEF:77%,LVEDV:109.9ml,LVESV:25.2ml,LV mass:142.2g.心筋は不均一な肥厚,菲薄化を認める.遅延造影では心筋はびまん性に淡い高信号で脂肪沈着を示唆する所見であった.サルコイドーシスや虚血性心筋症でよく見られるパターンとは異なる結果でありMRI上は,さらに心ファブリー病を疑う所見であった.ファブリー病の診断目的に,血漿α‐ガラクトシダーゼA活性を測定したところ0.7nmoles/hr/mlと低値であり,本症例は心ファブリー病と診断された.遺伝子解析に関しては,現在解析中である.
【まとめ】
心ファブリー病は病期が進行し末期に至ると心筋肥大の退縮や左室後壁基部の限局性菲薄化が生じ,限局性またはびまん性に左室収縮能障害が顕著となり,心不全発症後の予後は極めて不良とされている.本症例において,現時点では左室収縮能は比較的保持されているが,今後厳重な経過観察が必要と考えられた.今回,我々は,無症状の77歳女性における心臓超音波スクリーニング検査において発見された,奇異な左室菲薄化を呈した心ファブリー病の一例を経験したので報告する.