杉本 恵子¹, 渡邉 英一², 山田 晶², 杉本 邦彦³, 高橋 礼子³, 加藤 歩³, 犬塚 斉³, 久保 仁美³, 松浦 秀哲³, 岩瀬 正嗣²

Keiko SUGIMOTO¹, Eiichi WATANABE², Akira YAMADA², Kunihiko SUGIMOTO³, Ayako TAKAHASHI³, Ayumi KATOU³, Hitoshi INUDUKA³, Hitomi KUBO³, Hideaki MATUURA³, Masatugu IWASE²

¹藤田保健衛生大学医療科学部臨床検査学科, ²藤田保健衛生大学医学部循環器内科, ³藤田保健衛生大学病院臨床検査部

¹School of health sciences, Fujita Health University, ²School of medicine department of cardiology, Fujita Health University, ³Clinical Laboratory, Fujita Health University Hospital

キーワード :

【背景】
近年,治療法の進歩によって急性冠症候群の急性期死亡率は低下している．しかし,経過中に左室リモデリングとそれにともなう左室機能の低下が進行し,慢性期に発生する心不全の管理が重要な課題となっている．従来,左室リモデリングや駆出率（EF）の低下は予後悪化の因子であることが知られているが,長期間の左室リモデリングの進展を解析した検討は少ない．
【目的】
虚血性心疾患による慢性心不全患者において長期間の左室リモデリング進展と予後との関連を検討すること．
【対象】
対象は虚血性心疾患による心不全のために当大学病院CCUに入院した患者である．2000年から2010年までの間で3年以上6年未満の間をおいて2回以上心エコー検査を行い,1回目の心エコー図検査で左室拡張末期容積係数（EDVI）が正常値以内であった39症例（男性23例,75±9歳）を対象とした．
【方法】
心エコー図検査ではEDVI,左室収縮末期容積係数（ESVI）,左房径係数（LADI）,EFの各項目を1回目と2回目で計測し,EDVとESVはさらにそれぞれ変化率を算出し検討した．また,予後に関しては2010年9月に調査を行い,エンドポイントを心臓死とした．生存群（n=27）と死亡群（n=12）に分類し検討した．
【結果】
①1回目と2回目の心エコー図検査のインターバルは4.4±0.9年であった．②1回目の検査ではすべての計測項目において2群間に有意差は認められなかった．③2回目の検査ではEDVI（51.7 vs 77.9ml/m² p＜0.01）,ESVI（40.6 vs 73.9ml/m² p＜0.01）,LADI（26.3 vs 31.0mm/m² p＜0.05）,EF（49.2 vs 40.2％ p＜0.05）において両群間に有意差を認めた．③EDV変化率（10.1 vs 51.9％ p＜0.05）,ESV変化率（-6.5 vs 27.7％ p＜0.05）においても両群間で有意差を認めた．④ROC解析の結果EDV変化率のcut-off値を20.3％（感度83.3％ 特異度66.7％）,ESV変化率のcut-off値を12.0％（感度83.3％ 特異度63.0％）とするとそれぞれ心臓死の予測が可能であった．⑤これらのcut-off値よりどちらか一方もしくは両者ともcut-off値以上であった症例を拡大群（n=22）,どちらもcut-off値以下であった症例を非拡大群（n=17）として検討したところ,既往歴,内服薬には有意差を認めなかったが拡大群では死亡率（5.9％ vs 50.0％ p＜0.01）と下壁梗塞の有病率（17.7％ vs 58.1％ p＜0.01）が有意に高かった．
【考察・結語】
今回の検討では,心エコーの観察期間を揃えることと,虚血性心疾患発症からの期間を考慮に入れることはできなかった．しかし平均期間4年以上のインターバルで観察した結果,EDV変化率が20％以上,ESV変化率が12％以上認められる症例の予後は不良であり,これらの拡大には梗塞部位が関与している可能性が示唆された．