Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
循環器:薬

(S364)

薬剤性心筋障害発症様式の比較〜anthracycline 群とanthracycline+trastuzmab群〜

Chemotherapy induced cardiomyopathy 〜Differentiation of diagnosis and severity between anthracycline and anthracycline with trastuzmab.

野中 顕子1, 合田 麻美2, 山本 正子2, Stugaard Marie1

Akiko NONAKA1, Mami GOUDA2, Masako YAMAMOTO2, Marie STUGAARD1

1兵庫県立がんセンター循環器内科, 2兵庫県立がんセンター生理検査部

1Cardiology Department, Hyogo Cancer Center, 2Physiological Laboratory, Hyogo Cancer Center

キーワード :

【目的】
近年,再発性乳がんなどに対して頻繁に使用されるようになった分子標的薬のtrastumab使用例では,約7%が薬剤性心筋障害を発症すると言われている.一方で,anthracycline系抗がん剤使用例にも依然として薬剤性心筋障害は発生しており,一般的にanthracyclineによる薬剤性心筋障害は予後が悪いと言われている.この2剤による薬剤性心筋障害の発症様式の違いを,乳がん患者について検討した.
【方法】
当院で8年間に薬剤性心筋障害がみられた乳がん患者のうち,anthracycline系抗がん剤であるエピルビシン単独療法3例(E群),エピルビシン投与後にtrastumab(ハーセプチン)療法を施行した6例(E-H群)の心筋障害発症様式を検討した.治療前に比して10%以上のEF低下またはEF<50%を薬剤性心筋障害と定義した.
【結果】
E群で心筋障害の診断はエピルビシン投与終了の1カ月後,1年3カ月後,5年後になされたが,E-H群では全例ハーセプチン使用中に診断された.E群において,悪化時の心機能指標は,E/Aが有意に高値(E群1.97±0.90 vs E-H群0.92±0.23,p=0.023)LVEFが有意に低値(E群33±13 % vs E-H群47±4%,p=0.038)であった.E群3例中2例で心筋障害発症時にNYHA4度の心不全を呈し,心不全治療のために緊急入院を要した.うち1例は心不全死した.E群,E-H群ともに,全例においてエピルビシン最大投与可能量(900mg/m2)は遵守されており,エピルビシン使用量に有意差はなかった(E群602±284mg/m2 vs E-H群453±143mg/m2, p=0.316).E群では3例中2例で治療前の心エコーが施行されていなかったため,baselineの心機能指標の差については言及できなかったが,E群において,乳がん精査目的での胸部CTで,エピルビシン投与前に比し投与後で,心臓横径は増大していた.
【考察】
ハーセプチン使用例においては,投与前と継続投与中の定期的な心機能評価が強く推奨されており,一般的に心不全症状の有無にかかわらず3カ月ごとに心エコーによる心機能評価が行われている.ハーセプチン継続中に薬剤性心筋障害と判断されると適宜休薬およびACEI,ARBおよびβブロッカーなどによる心不全治療が開始されるため,E群とほぼ同量のエピルビシン使用歴があるにもかかわらず,E-H群では,顕性心不全発症前に早期治療が可能であったと考えられた.エピルビシンなどのanthracycline系抗がん剤においては,必要に応じての心機能評価(心不全症状出現時や最大量投与時,心筋障害リスクの高い場合は適時早めに評価)が奨められているため,薬剤性心筋障害はエピルビシン終了1カ月後〜5年後と晩期障害も含め,重症心不全の状態で発症することが多いと考えられた.がん患者は転移検索などのために胸部CTが定期的に行われることが多いため,anthracyclineによる薬剤性心筋障害を早期に見つけるためには,胸部CTでの心拡大傾向が認められた時に心エコーによる心機能評価を行い,心筋障害が代償性心不全の状態で診断され早期に治療介入できれば,薬剤性心筋障害による重症心不全を予防できる可能性が示唆された.