Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
基礎:組織性状

(S358)

超音波顕微鏡観察における,金属イオン試薬添加を利用した観察法の検討

Examination of the observation method using metal ionic reagent in the ultrasonic microscope observation

小林 和人1, 吉田 祥子2, 穂積 直裕3, 西條 芳文4

Kazuto KOBAYASHI1, Satiko YOSHIDA2, Naohiro HOZUMI3, Yoshihumi SAIJYO4

1本多電子株式会社研究部, 2豊橋技術科学大学環境生命工学, 3豊橋技術科学大学工学教育国際協力研究センター, 4東北大学医工学研究科

1Research & Development, Honda Electronics Co.,Ltd., 2Environmental and Life Sciences, Toyohashi University of Technology, 3International Cooperation Center for Engineering Education Development, Toyohashi University of Technology, 4Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

【はじめに】
超音波顕微鏡を用いた生体組織の固有音響インピーダンス計測の応用の一つとして,金属イオンを利用したインピーダンス像の変化に関して試みた.生体組織に比べ,重い金属イオンが生体組織に取り込まれれば,取り込まれた部位のインピ-ダンス像のコントラスト増強ができると考えられる.今回,摘出したラットの脳組織に,神経細胞表面に分布するカルシウムチャネルに吸着するイオンを選んで添加し,ラットの小脳発達に着目し,生後の日齢を追って脳を観察することにより,金属イオン添加の効果を確認したので報告する.
【実験】
金属イオン試薬添加を利用したコントラスト映像の確認のための,観察用の生体組織として,ラットの小脳を日齢7日(以下P7)P14,P21,P36を用いた.使用する金属試薬として,L型Ca2+チャネルに付着するCdCl2(100μM)を添加することとした.また,外液のイオン濃度変化による細胞の影響を観察するために,CaCl2(2mM),MgCl2(4mM)を添加し比較測定した.これらの試薬はすべてHEPESで希釈した.測定は最初に摘出した脳組織をシャーレに置き,そのままの状態で組織の音響インピーダンス測定終了後,それぞれの試薬をシャーレ内に添加して基板から組織を浮かせた状態で試薬に浸した.1分後試薬を取り除き,再び測定し,同一組織でコントロール状態と試薬添加後の状態を測定した.また,測定した脳組織に対し,L型Ca2+チャネルサブユニットを染色する抗VDCC抗体で免疫組織化学染色を行い超音波での測定結果と比較確認した.
【結果】
生後7日(P7)から生後21日(P21)までの日齢のラット小脳にCdCl2(100 μM)を添加した結果,試薬を添加した組織のP21の分子細胞層において,音響インピーダンス値が顕著に増加する結果が得られた.抗VDCC抗体で免疫組織化学染色したものとも良い相関が得られた.また,その他の試薬のCaCl2(2mM),MgCl2(4mM)の添加では,試薬添加前後で有意な差が見られなかった.これらの結果から,CdCl2(100μM)を添加することでL型Ca2+チャネルの分布している部位の音響インピーダンス値が増加する結果を得た.
【まとめ】
超音波顕微鏡による,固有音響インピーダンス測定において,金属イオン試薬はその金属が付着する特定組織の測定値を増加させる事ができ,その特定組織の分布を観察することができた.今回の実験で金属イオンによって,超音波顕微鏡による音響インピーダンス観察で,特定組織の分布を可視化することの可能性が示唆されたことから,金属試薬にとって,生体組織の特定組織だけのコントラストを増強して,簡便に可視化するツールとして利用できるものと考える.