Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
基礎:弾性計測

(S352)

音響放射力を用いた腱の機能計測に関する基礎検討

Tendon Functional Imaging Using Acoustic Radiation Force

浅見 玲衣, 田原 麻梨江, 吉川 秀樹, 東 隆, 橋場 邦夫

Rei ASAMI, Marie TABARU, Hideki YOSHIKAWA, Takashi AZUMA, Kunio HASHIBA

株式会社日立製作所 中央研究所メディカルシステム研究部

Madical System Research Department, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd.

キーワード :

【背景】
整形領域において,筋肉や腱の弾性的特性の変化は,断裂,血種,腱の衰え等の診断を行う上での重要な指標である.これらの指標は今まで主に問診で得られているが,定量的な計測値が得られれば,早期診断,予防,さらに治療インターベンションやスポーツ医学におけるパフォーマンス向上に有用であろう.このような指標定量化に関しては,これまでに,MRエラストグラフィを用いた検討が報告されている[1]が,装置が大型,およびボア内での撮像であるため運動機能の計測に制限がある,等の問題がある.一方,超音波診断は,整形領域の診断の有用であることが報告されており,さらに,リアルタイムで診断できる,小型化が可能,運動を行いつつあるいはストレスをかけつつ測定可能といった他のモダリティにはないメリットを持つ.現状,整形領域の超音波診断にはBモード及びドップラーモードが専ら用いられている.近年,活発に開発・適用が進んできたエラストグラフィは,組織の弾性的特性を測定するものであり,このエラストグラフィの適用により,整形領域での超音波による機能計測・診断が可能になると期待される.さらに,現在Bモードによる診断されている腱の断裂などがより詳細に検出可能になることも期待される.
【目的】
本報告では,筋肉・腱の機能計測手法を開発を最終目標とし,これら軟部組織にかかる張力を音響放射力を用いて診断する手法について1)生体模擬モデルの構築,および2)作製したモデルを用いた弾性的特性計測により筋肉・腱の機能計測手法に関する基礎的結果を得ること,を目的とする.また作製したモデルを用い,腱の断裂について簡便に検出する方法の基礎検討を行った結果も合わせて報告する.
【方法】
生体中の腱を模擬したモデルとして,軟部組織を模したゲル中に腱の模擬体を包埋し,制御された張力を加えることができる生体模擬体を構築した.腱の模擬体としてはin vitro検討では糸を,ex vivo検討では摘出した牛の腱をそれぞれ用いた.腱の断裂は,腱の一部にカッターで切り込みを入れることで模した.脱気水漕中に異なる張力を加えた状態でサンプルを固定し実験に供した.集束トランスデューサ(中心周波数3MHz)からの超音波照射によりサンプル内に音響放射圧を生成した.模擬腱にて生成した進行波およびずり波の伝搬を超音波診断用装置(EUB-8500,日立アロカメディカル)を用いて観測し,オフラインでデータを解析した.
【結果と考察】
今回構築したモデルにより,弾性測定のベースとなる張力の変化に応じた超音波画像上の変化が観測可能になった.本モデルでの検討結果により,糸に生じた波の伝搬速度が張力によって変化し,伝搬速度は張力の平方根と線形の関係にあることがわかった.ex vivo検討においてのずり波の伝搬速度も同様の傾向を示した.また断裂を模擬したサンプルのずり波の振動波形は,健常サンプルと比較して有意に異なり,断裂に起因すると思われる特徴的な周波数成分を含むことがわかった.
筋組織にかかる張力は,骨への結合状態によって,常にかかっている静的なものと運動により加えられる動的なものがあるとされているが,今回の検討からは特に静的張力に関しては,音響放射力をもちいて測定可能であるとの見通しを得た.また,振動から断裂の有無を検出するといった応用が期待される.今後,より臨床に近い実験系を構築し,より詳細検討を行う.
【Reference】
[1]Jenkyn, T., et al., J. Biomechanics, 2003, 1917-1921