英文誌(2004-)
一般口演
基礎:バブル
(S340)
マイクロバブルを援用したソノポレーションのメカニズムの分析
Mechanism Analysis of Microbubble Enhanced Sonoporation
廣瀬 巧大1, 岡本 旭生1, 張 一偉1, 東 隆1, 葭仲 潔2, 佐々木 明1, 高木 周1, 松本 洋一郎1
Koudai HIROSE1, Akio OKAMOTO1, Yiwei ZHANG1, Takashi AZUMA1, Kiyoshi YOSHINAKA2, Akira SASAKI1, Shu TAKAGI1, Yoichiro MATSUMOTO1
1東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻, 2産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー部門
1Department of Mechanical Engineering, Faculty of Engineering The University of Tokyo, 2Department of Human Life Technology, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
キーワード :
【目的】
近年,医学の進歩に伴い多くの疾患が遺伝子異常により引き起こされることが明らかになっており,その治療として遺伝子導入治療が注目されている.この治療手法の1つであるマイクロバブルを援用した超音波遺伝子導入法は,他の手法よりも安全性,低侵襲,導入部位の選択において期待される一方,現状では導入率が非常に低いことが問題点として挙げられる.先行研究では超音波の照射条件の変化に伴い遺伝子導入率や細胞生存率が変化することが明らかになったが[1],その原因は明確にされていない.そこで本研究では超音波照射中のマイクロバブルの挙動や細胞周辺の温度に注目して導入率および生存率への影響を分析し,更にそれらを制御することで導入率を高めることを目的とする.
【対象と方法】
導入率の向上には,超音波強度の増大が有効であるが[1],音響強度を増大させると細胞周辺の温度は上昇してしまう.超音波強度と温度を独立に制御するために,実験系での熱源と熱伝導を検討する必要がある.細胞周辺温度の上昇要因として,トランスデューサからの伝熱,マイクロバブルの伸縮・破裂による発熱,定在波を防ぐためにウェル底面に設置した吸音材からの伝熱が考えられる.これらの温度上昇への寄与を調べるため,マイクロバブルを含むウェル内溶液とトランスデューサ側面,および吸音材の超音波照射下での温度変化を熱電対によって測定した.照射時間は60秒で,マイクロバブルはSonazoidを用いた.超音波強度は5[W/cm2],溶液内のマイクロバブルの数密度[/mm3]は0.0,3.4×105の2種類で行った.また遺伝子導入には,マイクロバブルの破壊が細胞近傍で起きることが効果的である.実験系でのマイクロバブルの挙動を観察するため,ウェル側面から工業用スコープとハイスピードカメラを用いて観察を行った.このときの超音波強度は5[W/cm2],マイクロバブルの数密度[/mm3]は3.4×105,ハイスピードカメラのフレームレートは200[flame/s]である.
【結果・考察】
温度測定の結果,バブル数密度が3.4×105のときトランスデューサで3℃,ウェル内で5℃上昇し,吸音材では温度上昇は殆ど無かった.またウェル内においてバブルの有無による温度上昇の変化は10%程度と小さいため,細胞周辺での温度上昇はトランスデューサからの伝熱の影響が大きいと考えられる.ウェル内温度の上昇速度の時間変化を見ると,照射後10秒程度ではバブル有りの方が速かったが,その後はバブル有無に関係なく上昇速度は変わらなかった.従って照射後10秒程度でマイクロバブルが消失している可能性が高いと考えられた.一方マイクロバブルの観察では,照射開始後数秒間でバブルが凝集していくのが観察された.温度測定の結果を踏まえると,超音波照射数秒以内に多くのマイクロバブルは凝集して共振周波数が変わり,破裂や伸縮および発熱が起きなくなっていると考えられ,多くのマイクロバブルが遺伝子導入に殆ど寄与していない可能性がある.
【結論】
トランスデューサからの熱を遮断することで温度をほぼ一定にしたまま超音波強度を増大できると期待できるので,遮熱機構を構築し遺伝子導入を行うことで生存率や導入率と温度の関係を調べていく.またバブル数密度分布の時間変化を定量的に測定する方法を検討し,バブルを凝集させずに破裂,伸縮させるような超音波条件を検討していく.
【参考文献】
[1]R. Tachibana et al., Proc. 9th ISTU vol. 1215, pp.315-318, 2010