Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

奨励賞演題:産婦人科

(S326)

双胎間輸血症候群の胎児治療例における位相差トラッキング法を用いた胎児心機能の計測

Evaluation of fetal cardiac function used in Phased-Tracking Method on the case of twin-to-twin transfusion syndrome

小澤 克典1, 2, 宮下 進1, 2, 佐藤 聡二郎1, 室月 淳1, 2, 長谷川 英之3, 金井 浩3, 八重樫 伸生4

Katsusuke OZAWA1, 2, Susumu MIYASHITA1, 2, Soujirou SATOU1, Jun MUROTSUKI1, 2, Hideyuki HASEGAWA3, Hiroshi KANAI3, Nobuo YAEGASHI4

1宮城県立こども病院産科, 2東北大学大学院医学系研究科 先進成育医学講座 胎児医学分野, 3東北大学大学院工学研究科 電子工学専攻 医工学研究科, 4東北大学産婦人科

1Obstetrics, Miyagi Children’s Hospital, 2Graduate School of fetal medicine, Tohoku University, 3Graduate School of Engineering, Tohoku University, 4Obstetrics and Gynecology, Tohoku University

キーワード :

【目的】
胎児の心循環動態の評価は,対象となる心臓が小さいこと,成人と循環が異なること,経母体的な計測となることなどからきわめて難しく,その方法は未だ一定していない.超音波の波長ごとの変位を検出する従来の超音波検査法(スペックルトラッキング法など)に比べ,今回われわれが新たに導入した位相差トラッキング法は,反射波の位相の差から波長の幅の変化を検出するため精密な計測が可能である.われわれは心筋の収縮・拡張速度は心筋の伸縮機能を示すことに着目し,位相差トラッキング法を用いて胎児心機能の評価を試みた.
【対象と方法】
直交検波信号を外部出力可能に改良した東芝製超音波診断装置を用い,解析はオフラインで行った.速度の計測精度は0.1mm/s,積分値としての距離の精度は0.2~0.5μmである(水槽実験で精度評価済み).対象は,胎児循環が経時的に大きな変動を示すモデルとして双胎間輸血症候群の胎児を取り上げた.胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術を施行した双胎間輸血症候群Quintero stage 1,2,および3aの計4例について,その術前後に位相差トラッキング法を用いて胎児心筋の収縮期・拡張期最大速度,ストレインレート(SR),および心室内径変化(Fractional Shortening: FS)の計測を行った.レーザー手術施行時の妊娠週数は18〜21週であった.
【結果】
レーザー手術前後の受血児の変化では,右室全例で収縮期SRが減少(平均3.21→2.62/s),および拡張期(心房収縮期)最大速度が減少(平均29.11→17.72mm/s),Stage 1,2の右室では拡張早期SRが増加(平均2.71→3.91/s)した.左室では,全例で拡張期(心房収縮期)SRが減少(平均5.91→2.42/s)した.Stage 1,2の左室では収縮期SRが減少(平均4.14→2.04/s),収縮期最大速度も減少(平均15.62→11.21mm/s)したが,stage 3aの左室では増加した.Stage 1,2では受血児の収縮期SRが減少するのに対してFSは減少せずやや増加する.一方供血児の変化では,Stage 1,2の左室で拡張期(心房収縮期)SRが減少(平均6.07→3.59/s)し,SR e/aが増加(平均0.51→1.36)したが,stage 3aの左室ではその逆の変化となった.
【結論】
位相差トラッキング法によって計測された双胎間輸血症候群症例のレーザー手術前後の指標の変化により,胎児循環における後負荷の増加を精密に評価することが可能となった.さらにレーザー手術後に拡張コンプライアンスが増加し,特に受血児で心筋の運動機能が低下している可能性が示唆された.胎児心筋の収縮期・拡張期最大速度は妊娠週数と共に増加するがSRは一定であり,そしてどちらも右室優位であるとされている.供血児の収縮期SRの減少は後負荷の増加を反映している可能性がある.受血児,供血児ともに拡張期(心房収縮期)SRが減少する変化は,通常の胎児のSR e/aが1以下であることを考えると拡張コンプライアンスに変化が生じている可能性が示唆された.