Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 整形外科
シンポジウム9 動画で考える頭の再教育−動きで運動器疾患の病態を理解する−

(S314)

野球肘の病態を動きから評価する

The pathological evaluation of elbow injury in baseball players by dynamic movement

鈴江 直人

Naoto SUZUE

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部運動機能外科学

Department of Orthopedics, The University of Tokushima Graduate School

キーワード :

【はじめに】
「野球肘」は投球によって生じる肘関節障害の総称であり,一般的にその診断には画像検査として単純X線写真がfirst choiceとされている.例えば野球肘のなかでも成長期野球選手に発生し,臨床的に重症度の高い上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は,これまで単純X線写真からその病期分類がなされ,治療方針が決定されてきた.単純X線写真だけでは判断が困難な場合はさらにCTやMRIが追加され評価されている.しかし,いずれの検査も得られる画像は静止画である.野球肘は投球動作のなかで,ある部位に一定のストレスが繰り返し加わって発症するものであるため,本来動きをみて病態を理解し,評価する必要があるはずである.現時点でこの動きをみることができる実質唯一の検査は超音波エコーである.
【上腕骨小頭離断性骨軟骨炎】
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の発症には,投球動作における加速期に小頭と橈骨頭の間にかかる圧迫,剪断ストレスが関与することは広く知られている.病期が進行してきた際,保存的に修復が得られるのか,手術が必要なのかの判定は重要で,この場面で超音波エコーが効力を発揮する.病巣部に対して橈骨頭からの圧迫を加えて病巣部が動くようなら保存的治癒は困難で,手術が適応される.
【尺側側副靱帯障害】
投球動作においては肘関節内側には牽引ストレスがかかる.このストレスに対する制動は主に尺側側副靱帯が担っており,骨化が終了した成人においては尺側側副靱帯障害が認められる.繰り返すストレスを受けた結果,靱帯機能不全が発生し,関節の不安定性による症状が引き起こされる.従って単に画像から靱帯の異常があるかどうかだけでなく,実際にストレスをかけながら関節の不安定性を評価することが重要である.
【肘頭尖端部障害・上腕骨滑車部障害】
肘関節後方部の障害として,肘頭尖端部や滑車に骨軟骨障害を認めることがある.肘関節を伸展・外反させた際に疼痛が誘発されることから,投球動作のフォロースルー期において,上腕骨滑車と肘頭部の間に剪断ストレスが,さらに肘頭と肘頭窩が圧迫ストレスを受けていることが原因と伺える.超音波エコーでは実際に肘関節の伸展・外反で肘頭部が伸展とともに滑車の障害部位を擦っていき,最後に肘頭窩と衝突することが捉えられる.
【考察】
近年,超音波エコーが野球肘の診断に有用であることが多数報告され,多施設で使用されつつあるが,その最大のメリットは動きのなかで病態を捉えることができる点である.もちろん単純X線写真では写らない軟骨組織や血流で炎症を評価できる点も大きなメリットであるが,それだけでは超音波エコーの威力を十分に活かし切れていないと考える.われわれがこれまで親しんできた画像検査は全て静止画であったため,つい静止画で評価する癖がついてしまっているが,超音波エコーという新たなツールを手にした今,「動きをみる」意識を持ちたい.