Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 体表臓器
ワークショップ11 甲状腺結節の超音波スクリーニング−放射線被ばく後検診をめぐって−

(S310)

放射線被ばくと甲状腺がん

Radiation exposure and thyroid cacner

宮川 めぐみ

Megumi MIYAKAWA

虎の門病院内分泌代謝科

Endocrine Center, Toranomon Hospital

キーワード :

2011年3月11日未曾有の東日本大地震と大津波が発生し,福島第一原子力発電所では炉心融解とそれに引き続き次々と水素爆発が起こりました.その結果,広範囲にわたり放射能汚染が起こり社会的にも日本経済にも大影響をもたらしました.1986年に起こったチェルノブイリ原発事故後に小児の甲状腺がんが著増した事実もあり,多くの日本国民の中で各地での放射能汚染による食生活への不安だけでなく,放射線被曝による小児がん,とくに甲状腺がんの問題が取り上げられています.チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんは事故後4〜5年から増加しており,1991-2005年の15年間で事故当時18歳未満の子供6848人に甲状腺がんが発症したと報告されています.年齢別では10歳未満が98%を占めています.また甲状腺がんを発症した子どもの放射性ヨウ素の甲状腺被曝量は,推定100mSv〜2000mSvの間で,被曝が多いほど甲状腺がんになる率は高かったといわれています.チェルノブイリでは小児の甲状腺癌が増加したことは明らかで,今のところ唯一放射線事故によりがんの発症が統計的に有意に増加したがんとして認められています(UNSCEAR2008).一般に被曝量とがん発生リスクとの関連性については,一般に100mSv以上になるとがん発生のリスクは100mSv増えるごとにリスクが0.05倍ずつ増加するといわれています.しかし100mSv未満の被爆では統計学的に有意ながんの増加は認められておらず,さらに低い線量での発がんリスクについては不明な点も残されています.従って,放射線防護の立場から,現在は被曝線量とがん発症リスクの間に「閾値なしの直線モデル(LNT仮説)」が採用されています.つまり低線量被爆(100mSv未満)でも影響があるとして対策がたてられているのが現状です.実際に福島原発事故後に測定された放射性ヨード量はチェルノブイリの時の10分の1以下であり,事故直後に近隣の子供たちに対して測定された放射線被ばく量はほとんど問題ないレベルであったことが報告されていますが,今後長期にわたる被ばくの影響については慎重な対応が必要と考えられます.現在,福島県立医大の中に放射線医学県民健康管理センターが開設され,全福島県民を対象とする「県民健康管理調査」が開始されています.その中で平成23年10月より0歳〜18歳までの小児36万人を対象に甲状腺超音波検診が始まり,12月現在1万人以上の検診が行われました.今後はさらに日本全国に避難した福島県の小児の甲状腺検診についても行われていく予定です.本日はこのような社会情勢の中で,放射線被曝と甲状腺がんについて文献的考察をふまえて概説したいと思います.