Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 体表臓器
ワークショップ11 甲状腺結節の超音波スクリーニング−放射線被ばく後検診をめぐって−

(S309)

甲状腺超音波検診の実像

The truth of ultrasonographic screening for thyroid disease

志村 浩己

Hiroki SHIMURA

山梨大学医学部第三内科

Third Department of Internal Medicine, University of Yamanashi

キーワード :

【はじめに】
福島第一原子力発電所事故後の福島県県民健康調査の一環として,事故時18歳以下を対象として,甲状腺超音波検診が開始されている.現在,主に小児を対象としている検診は,今後検診が継続されるに従い,対照者が成人となってくるため,有所見者が増加傾向を示す予想される.そのため,適切な検診の実施と評価を行うためには,甲状腺超音波検診の実像を理解することが重要と考えられる.
【結節性甲状腺疾患のスクリーニング】
我々は,2004年から5年間,人間ドック受診者全例の21270名(のべ39163名)に甲状腺エコーを実施した.対照者年齢は20歳~93歳であり平均年齢は49.7歳であった.その結果,のう胞性病変(3 mm以上)は6024名(27.6%,男性23.2%,女性33.5%),充実性結節(3 mm以上)は4978名(22.8%,男性18.1%,女性29.1%)に認められた.結節径別に分類すると,10mm以下が結節全体の71.0%であり,11mm~20mmが23.3%,21mm以上が5.7%であった.また,年齢別頻度を検討したところ,すべての所見において年齢に比例した頻度上昇が認められており,70歳以上では充実性結節は男女ともに40%以上で,のう胞は男性30%,女性40%前後に上昇していた.充実性結節を認めた4978名については,その4.5%に経過観察を含む受診勧奨を行い,3%が検診後に医療機関を受診した結果,0.27%が悪性腫瘍と診断されている.受診率を100%とすると悪性腫瘍の発見率は0.38%(男性0.32%,女性0.47%)と推定されている.悪性腫瘍の組織型は乳頭癌55例,濾胞癌1例,転移癌1例,組織型不明1例であった.本邦から報告された文献の集計においても,超音波検診による甲状腺結節の発見率の平均は男性16.7%,女性27.9%,甲状腺癌の発見率は男性0.27%,女性0.66%と計算され,我々の結果とほぼ同等であった.
【びまん性病変のスクリーニング】
今回の,福島県における甲状腺超音波検診においては,びまん性病変についてもスクリーニングが行われている.びまん性病変の代表的疾患は橋本病とバセドウ病であり,これらによる甲状腺機能低下症と機能亢進症は,潜在性も含めると成人における頻度はそれぞれ約5%と0.5%と高頻度であり,甲状腺検診におけるびまん性甲状腺疾患のスクリーニングの重要性は非常に高いと言える.前述の人間ドック受診者を対象とする調査において,甲状腺サイズ異常及び内部エコーレベル異常が2450名(11.2%,男性7.6%,女性16.1%)に認められている.さらに年齢別頻度では,腫瘤性病変と同様に年齢に比例した頻度上昇が認められ,高齢者においては,男性約10%,女性では約25%に至っていた.
【結論】
結節性ならびにびまん性甲状腺疾患の罹患率は非常に高く,甲状腺超音波検診では,非常に高頻度に異常所見を認め,その頻度は年齢の上昇に比例して上昇する.福島県における健康調査においては,多数発見される超音波所見から,臨床上問題となる疾患を効率良く選択する方法を,今後も議論していく必要があるとともに,得られたデータの検討においても,従来報告されているデータとの十分な比較の上での解釈が求められる.