英文誌(2004-)
特別企画 腎泌尿器
シンポジウム10 泌尿器科癌取扱い規約にみる超音波診断基準の問題点
(S295)
前立腺癌取扱い規約におけるMRIの立場:超音波との対比を含めて
General rule for clinical and pathological studies on prostate cancer: the role of prostate MR imaging
楫 靖
Yasushi KAJI
獨協医科大学医学部放射線医学講座
Department of Radiology, Dokkyo Medical University School of Medicine
キーワード :
改訂された前立腺癌取扱い規約第4版では,臨床的事項の中にMRI撮影法,所見記載法の記述がある.推奨される使用装置の条件や,癌を疑う所見や前立腺外浸潤を疑う所見など,評価の基本が示されている.MRIが前立腺癌の検出や浸潤の評価に役立つことが認められた結果と考えられる.改訂前までは,T1腫瘍の定義にある「画像では診断不可能」の画像にMRIが含まれるのか否かはっきりしなかった.今回,MRIが組み入れられたことにより,T1c腫瘍が減ることが予想される.MRIには様々な撮影法があり,撮影法ごとに評価しやすい病態もあれば評価が不得意な病態もあることを知った上で利用する必要がある.たとえば,T1強調像は局所の腫瘍検出には役立たないが,生検後の血腫がどこまで広がっているか,精嚢液が高信号となっていないか,骨病変は無いか,等を評価する役割を持つ.腫瘍検出については,T2強調像,拡散強調像,ダイナミック造影像と分けて考える.腫瘍検出の原理はそれぞれ異なり,また画質が劣化する原因も異なる.ある症例では,ダイナミック造影像よりも拡散強調像のほうがよく腫瘍をとらえていたが,別の症例ではダイナミック造影像だけで腫瘍がわかった,ということもよくある.このように撮影法ごとに診断能が異なるが,複数の撮影法の結果が得られたときに,総合的な判断をどのように下すかについては明確なコンセンサスは得られていない.一方,前立腺癌取扱い規約の中に記載されている超音波検査の項目では,使用装置の条件は細かく述べられておらず,Bモード法以外にはパワードプラー法に関するコメントが少しあるだけである.癌の超音波所見としては,「低エコー領域など異常エコー領域があれば癌を疑う」とされており,客観的な表現が困難な様子がうかがえる.被膜外浸潤,精嚢浸潤の評価基準は具体的に記載されている.超音波検査の役割を生検ガイド用のツールと割り切って使われる施設が圧倒的に多ければ,現在の記載内容でよいと思う.しかし今後は,MRIと同様に造影超音波検査やエラストグラフィなど新しい検査法が普及する可能性がある.超音波検査による腫瘍の評価を推進するためには,具体的な検査のやり方や適切に評価ができる装置の条件,新しい撮影法の基本的所見などの記述を加えてもよいのではないだろうか.今回の改訂は,MRIの撮影法と評価法の標準化をすすめる第一歩になるのではないかと,期待している.