堀田 久美¹, 村山 陵子¹, 岡本 美香子¹, 芦田 沙矢香¹, 春名 めぐみ¹, 松崎 政代¹, 上妻 志郎², 村嶋 幸代³

Kumi HOTTA¹, Ryoko MURAYAMA¹, Mikako OKAMOTO¹, Sayaka ASHIDA¹, Megumi HARUNA¹, Masayo MATSUZAKI¹, Shiro KOZUMA², Sachiyo MURASHIMA³

¹東京大学大学院医学系研究科母性看護学・助産学教室, ²東京大学大学院医学系研究科産婦人科教室, ³東京大学大学院医学系研究科地域看護学教室

¹Department of Midwifery and Women’s Health, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, ²Department of OB/GYN, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, ³Department of Community Health Nursing, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo

キーワード :

【目的】
経会陰超音波により肛門括約筋の潜在裂傷を評価し,その実態を明らかにすること．
【対象と方法】
Volson i （GE社製）,5~9MHz 4D経膣プローブ（RIC5-9-RS）を使用した経会陰的方法で,妊娠末期と産後2〜4日に経膣分娩の初産婦を対象に,肛門括約筋の潜在的な裂傷（以後「潜在裂傷」）を評価した．データ収集は,水平仰臥位の対象者の肛門と後会陰交連の中央付近にプローブ先端をあて,矢状面において低エコーで平行な2本の線として描出される内肛門括約筋をガイドに画面肛門管全域が画面に収まることを確認して行った．（図1）肛門括約筋裂傷は,肛門端から1mmごとの肛門管横断面画像（図2）で評価した．東京大学医学系研究科倫理委員会の承認を得た．
【結果】
画像が不明瞭だった2名を含む脱落者と帝王切開を除外し,経腟分娩の初産婦262名（器械分娩27名含）を分析対象とした．潜在裂傷は74名（28.2％）で,そのうち内肛門括約筋と外肛門括約筋両方の裂傷が21名（28.4％）,外肛門括約筋のみが51名（68.9％）（図3）,内肛門括約筋のみが2名（2.7％）で,部分的範囲の裂傷は全て直腸側だった．母体の0時方向の潜在裂傷者は,10~11時または1~2時方向の裂傷者より高齢で（p=0.047）,産前産後の会陰長の変化は大きく（p=0.005）,排臨から発露の時間が長かった（p=0.007）．潜在裂傷の左右方向と会陰切開の左右方向は一致していた（p=0.003）．
【考察】
潜在裂傷は,先行研究同様に外肛門括約筋裂傷が多かった．また潜在裂傷の範囲や方向の特徴と会陰切開の左右方向と潜在裂傷の方向が一致しているという結果から,側切開を行うと会陰の皮膚が切開とは反対側に変位し,児頭娩出の際に外肛門括約筋と恥骨直腸筋の境界付近への不均衡な負荷が生じ肛門括約筋裂傷を発生させる可能性があることが推察された．
【結論】
肛門括約筋の潜在裂傷は,初産経膣分娩の28.2％に発生し,その97.3％に外肛門括約筋の裂傷があった．潜在裂傷は全例膣側方向で直腸に近い範囲から生じていた．潜在裂傷には,肛門括約筋に隣接する深会陰横筋,浅会陰横筋,恥骨直腸筋が関わっている可能性が示唆された．