Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
ワークショップ5 皆で共有したい印象に残る産婦人科症例

(S285)

胎盤超音波所見と臨床症状から部分胞状奇胎合併妊娠を疑った一症例

Partial hydatidiform mole complicated with pregnancy-related hypertension, proteinuria, and pleural effusion at 19 weeks of gestation

塩崎 有宏1, 竹村 京子1, 米澤 理可1, 米田 徳子1, 津留 明彦2, 斎藤 滋1

Arihiro SHIOZAKI1, Kyoko TAKEMURA1, Rika YONEZAWA1, Noriko YONEDA1, Akihiko TSURU2, Shigeru SAITO1

1富山大学産科婦人科, 2糸魚川総合病院産婦人科

1Obstetrics & Gynecology, University of Toyama, 2Obstetrics & Gynecology, Itoigawa Sogo Hospital

キーワード :

【はじめに】
 妊婦健診時の超音波検査で胎盤絨毛内に嚢胞状変化を認めた場合,胞状奇胎(hydatidiform mole)が疑われることが多い.しかし妊娠初期のHMに対する超音波診断の正診率は40%前後と低く,特に部分胞状奇胎(PHM)の診断は28%と,全胞状奇胎(CHM)の76%に比しきわめて低い.今回我々は妊娠11週に胎盤内小嚢胞を認め,妊娠19週に突然,重症の高血圧と蛋白尿を呈し,胎盤病理からPHMと診断した症例を経験したので報告する.
【症例】
 30歳,初産婦,自然妊娠.前医で妊婦健診を受けていた.妊娠11週の経腟超音波では,週数相当の胎児と胎盤実質内に1.3cmの嚢胞を認め,妊娠15週の再診時でも多数の小嚢胞を認めていたが,胎児発育は正常で,かつ,母体経過も正常であったため,外来で経過観察されていた.しかし妊娠19週2日呼吸困難を主訴に前医を受診したところ,血圧158/93mmHg,蛋白尿4+を認めたため,前医入院となるも軽快せず,呼吸苦の増強のため,妊娠19週5日当科に母体搬送となった.胸水貯留のため,起坐呼吸しかできず,経鼻酸素を必要とした.胎児は女児で,発育は不良(183g,-2.4SD)であったが,明らかな形態異常はなかった.胎盤の胎児面,絨毛膜板下に0.5-1.0cmの嚢胞状,低エコー領域を十数個認めたが,同部位に血流はなく,絨毛膜板内の血管の拡張もなかった.また尿中hCG,血中hCG とも高値(97,000 IU/L)であること,また胎盤超音波所見と臨床症状よりPHM合併妊娠を疑った.入院後,腎機能の悪化や更なる胸水の増悪を認めたため,母体適応で妊娠中断を決定した.分娩後,母体の高血圧,蛋白尿,胸腹水は速やかに消失した.娩出された胎盤実質内に数個の大嚢胞と数十個の小嚢胞が混在し,p57kip2染色陽性であること,また絨毛膜板には拡張した血管を認めなかったことから,PHMと診断した.一方胎盤と臍帯の染色体検査はそれぞれ69, XXX,46, XXで,胎盤は単一であったことから,発生過程で胎盤が3倍体,胎児が2倍体になったと考えられ,現在DNA解析中である.
【まとめ】
 妊娠初期の超音波から奇胎合併妊娠が疑われ,胎盤病理でPHMと診断した症例を経験した.胎盤内に嚢胞状低輝度領域を認めた場合には,PHM,PMD,胎児共存全奇胎,胎盤血管腫を念頭において管理すべきである.