Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
ワークショップ5 皆で共有したい印象に残る産婦人科症例

(S284)

人工羊水注入を行ったが循環障害が改善しなかった臍輪部狭窄の一症例

A case report of amnio-infusion having no effect against irreversible umbilical ring constriction

德中 真由美, 長谷川 潤一, 仲村 将光, 濱田 尚子, 松岡 隆, 市塚 清健, 大槻 克文, 関沢 明彦, 岡井 崇

Mayumi TOKUNAKA, Junichi HASEGAWA, Masamitsu NAKAMURA, Shoko HAMADA, Ryu MATSUOKA, Kiyotake ICHIZUKA, Katsufumi OTSUKI, Akihiko SEKIZAWA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【症例】
38歳,0回経妊
【既往歴】
37歳で子宮筋腫・子宮内膜症に対して当院で腹腔鏡下筋腫核出術・卵巣嚢腫摘出術を施行.
【現病歴】
自然妊娠成立後,近医で妊婦健診施行.妊娠21週の健診で前置胎盤の指摘がされていた.妊娠24週の健診で胎児発育不全・羊水過少を指摘されたため当院へ紹介され,同診断で入院となった.
【入院時現症】
妊娠24週5日.身長157cm,体重57.0kg.血圧124/78mmHg.子宮は軟,子宮口閉鎖,頸管長40mm,帯下白色.胎盤は子宮後壁〜前壁に付着の前置胎盤にみえたが,羊水過少のため診断は困難であった.EFBW:335g(-3.7SD),MCA-RI:0.76,PSV:25.59cm/s,UmA-RI:0.74.Amniotic pocket(AP)0mmであり,胎児の詳細な形態の描写は困難であったが,明らかな異常は認めなかった.
【入院後経過】
妊娠の早い時期よりの高度な発育不全であり,胎児染色体異常も考えて,羊水検査を行うこととした.羊水過少が高度で羊水を採取できないため,また,胎児及び胎盤の形態異常の描写を良くするために,妊娠25週4日に人工羊水を注入し,羊水検査を施行することとした.21GのPTCD針で1回穿刺し,温生理食塩水を450ml注入.その後90mlを回収し染色体検査へ提出した.最後に破水による羊水過少を否定するためにインジゴカルミン2mlを注入し処置を終了した.人工羊水注入後,胎児の形態異常の精査を行ったが,明らかな異常はなかった.胎盤は辺縁前置胎盤であった.羊水量は数日間AP20-26mmを維持していた.また,インジゴカルミンの流出はなく,破水による羊水過少は否定的であった.染色体はFISHでは異常なしと判定されたが,G-bandは培養不良で結果がでなかった.胎児心拍数モニタリングでは時々基線細変動の減少や一過性徐脈を認めた.入院後より2週間が経過した時,growth arrestとなったためterminationも考慮したが,胎児発育不全の程度がひどく予後は不良であると考えられたので,患者の意志をふまえ,すぐに帝王切開をせず経過を観察することとした.その後,臍帯動脈血流の途絶と逆流がみられる様になり,2日後の妊娠26週5日に子宮内胎児死亡に至った.前置胎盤及び子宮筋腫核出術後ではあったが,胎児が死亡しているので,できれば経腟的に分娩させる方針とした.ラミセル・ラミナリアで頸管を拡張し,プレグランディン腟錠で分娩誘発をおこなった.しかし,陣発後から出血量が増加し,総出血量1900mlとなり出血性ショックに陥ったため,やむなく帝王切開での分娩とした.胎盤娩出後の出血のコントロールは良好であった.児は530g,明らかな外表奇形はなかった.胎盤は210g,肉眼上明らかな異常はなかった.臍帯は40cm,過捻転があり,臍輪部は細く狭窄していた.解剖は希望されなかったが,胎児発育不全・羊水過少・子宮内胎児死亡の原因は臍輪部狭窄であったと考えられた.術後MAP4単位を投与し,全身状態は改善,術後7日目に退院した.
【考察】
妊娠中期の人工羊水注入については,超音波診断の精度改善や前期破水の補助診断としての有用性のほかに,新生児予後に有用であるという報告もある.しかし,今回の症例では検査目的の人工羊水注入後に,羊水量は保たれていたが,臍帯の臍輪部狭窄により胎児は死亡した.本例のような重症の胎児発育不全・羊水過少症例では,臍輪部狭窄を念頭に置いた超音波検査が必要なこと,また,すでに胎児発育不全・羊水過少が重症化した臍輪部狭窄症例では,羊水注入をおこなっても循環障害を改善できないことが示唆された.