Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
ワークショップ5 皆で共有したい印象に残る産婦人科症例

(S284)

胎児肺動脈血栓症の1例

A case of fetal pulmonary embolism

三好 剛一, 根木 玲子

Takekazu MIYOSHI, Reiko NEKI

国立循環器病研究センター周産期・婦人科

Perinatology and Gynecology, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【症例】
44歳,1回経産婦.体外受精で妊娠成立後,近医で妊婦健診に通院中.妊娠19週の胎児スクリーニングでは異常所見を認めなった.24週の妊婦健診時に胎児右胸水,心嚢液,皮下浮腫を認めたため,25週4日に当科を初診.胎児の両側胸水,腹水,心嚢液,皮下浮腫および羊水過多(AFI 38cm)を認め,同日緊急入院の上,胎児胸腔穿刺および羊水穿刺を施行.胸水はリンパ球99%で,羊水はCMV-PCR陰性,正常核型であった.胎児心構築異常や不整脈なく,BPS 8点で,血流異常を認めず.翌日には胸水は初診時のレベルまで再貯留したため,26週2日に胎児胸腔羊水腔シャント術①(左右1本ずつ)を施行.右胸水は減少,腹水は消失,皮下浮腫も減少したが,羊水過多の進行ありtocolysis漸増,27週3日AFI 48であり羊水除去を施行.右胸水の再増加を認めたため,28週4日に胎児胸腔羊水腔シャント術②(右1本追加)を施行.29週0日に羊水除去を施行.その後,両側胸水増量,腹水出現,皮下浮腫増悪およびBPS 6点と増悪あり,29週3日に胎児胸腔羊水腔シャント術③(左1本追加)を施行.術後,塩酸リトドリン+硫酸マグネシウム併用でtocolysis困難であり,インドメタシン150mg/日(8時間おき)を4日間併用.術後,左胸水消失,BPS 8点まで改善したが,右胸水の再増量および羊水過多の進行あり,30週0日に右胸水除去および羊水除去を施行.NST異常を認めるため,児の娩出も考慮しベタメサゾンを投与.30週1日に右室収縮不全,右房拡張,TRが出現,それまで認めていた動脈管および肺動脈血流を認めなかった.動脈管早期閉鎖が疑われたが,30週での胎児水腫の救命は困難と判断し,妊娠を継続する方針とした.左胸水消失したままだが,右胸水増量,腹水増量,皮下浮腫増悪,BPS4点まで低下を認めたため,30週4日に胎児胸腔羊水腔シャント術④(右1本追加)を施行.術後,右胸水著減,腹水減少,皮下浮腫改善,BPS 8点まで改善,羊水過多の進行も認めなくなったが,右心不全は改善せず,心嚢液増量,動脈管および肺動脈血流は認められないままであった.31週3日に陣痛発来,緊急帝王切開術を施行.1686g男児,APS 1/2/2,皮下浮腫はほぼ消失していた.気管挿管,サーファクタント投与,FFP輸血,両側胸腔ドレーン留置,心嚢液穿刺を施行.HFOに装着するも呼吸成立せず,蘇生に反応せず,出生3時間後に死亡.病理解剖で肺低形成(肺体重比0.6%),肝腫大を認めた.右心房・右心室の拡張のほか,肺動脈本幹が拡張し内腔が血栓で置換していた(肺動脈血栓症).動脈管は狭窄のみで閉鎖はしていなかった.
【考察】
妊娠32週未満の胎児水腫は極めて予後不良である.本症例では,4回にわたる胎児胸腔羊水腔シャント術により胎児水腫は改善したが,肺低形成および肺動脈血栓症のため救命不能であった.これまで胎児肺動脈血栓症の報告例はなく,インドメタシンおよびベタメサゾンによる動脈管の狭窄,胎児水腫に伴う右心機能低下,さらに胎児治療に伴う炎症などの相互作用により生じた可能性がある.記録された超音波画像および剖検所見を照らし合わせ,後方視的に検討を行なった.