Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
パネルディスカッション8 胎児超音波検査ガイドラインはこれでよいか

(S281)

胎児超音波検査ガイドラインはこれでよいか〜胎児心スクリーニングの現状から考える〜

The Guidline of fetal ultrasound considering from present fetal screening

川瀧 元良

Motoyoshi KAWATAKI

神奈川県立こども医療センター新生児科

Neonatology, Kanagawa Childrens medical Center

キーワード :

【目的】
完全大血管転位症(TGA),総肺静脈環流異常(TAPVD),左心低形成症候群(HLHS)は新生児期開心術で最も多くを占める重症心疾患である.近年の心臓外科の進歩により,手術成績は著しく向上し,乳児の心臓外科手術の死亡率は5%以下まで低下した.ショック状態や高度の低酸素状態を回避し良好な全身状態を維持して外科治療を可能にする胎児診断の意義はますます高くなっている.諸外国では胎児超音波診断ガイドラインはすでに作成され,胎児スクリーニングの普及に寄与している.わが国では日本胎児心臓病学会作成のガイドラインはあるものの,産婦人科によるガイドラインの作成が待望されてきた.【胎児超音波検査ガイドラインはこれでよいか】の議論は,胎児心スクリーニングの現状を正確に把握することから出発すべきである.登録制度が確立されていないわが国にはpopulation based studyに基づいたデータがないため,神奈川県出生数から推定して重症先天性心疾患の過半数をカバーしていると考えられる当院のデータベースをもとに胎児心スクリーニングの現状を検討した.
【方法】
2004年から2009年までに生後1年以内に治療された心疾患869例および,同期間に胎児診断された全心疾患症例557例を対象に,生後1年以内に治療を要した重症心疾患の胎児診断率,主な重症心疾患の胎児診断率について検討した.
【結果】
1.胎児診断された重症心疾患は338例であり,胎児診断率は46%であった.各疾患別の胎児診断症例数(胎児診断率)は,以下のとおりである.無脾症24例(65%),多脾症18例(90%),Ebstein病16例(84%),PA IVS 10例(59%),HLHS 28例(74%),AVSD 34例(49%),TOF 46例(50%),DORV 40例(61%),TGA 9例(28%) COA VSD 10例(37%),単独のTAPVD 2例(9%)
【考案】
理想的なガイドラインを策定する為には,ガイドラインはだれのためにあるのかについてのコンセンサス抜きに議論を進めることはできない.私はガイドラインは生れてくる児のためにあると考える.児の予後改善に寄与するガイドラインであるべきである.そのためには現状の重症心疾患率を把握し,現実のニーズに基づいて議論すべきと考える.近年胎児心スクリーニングが急速に普及しつつあることは,今回のデータをみると明らかである.いまや単心室疾患の大多数が胎児診断されるようになった.その結果,ショック状態や高度の低酸素状態で緊急入院する新生児はほとんどいなくなった.また,TOFなどの流出路狭窄疾患の過半数が胎児診断されるようになった.胎児心臓病学会から出されたレベル1の胎児スクリーニングが広く実施されていることが推測される.現在残された課題は,TGA, COA+VSD, TAPVDの3疾患である.Five Chamber View(5CV), Three Vessel View(3VV) Three Vessel Trachea View(3VTV)まで観察範囲を広げ,大血管の大きさだけでなく,大血管の前後の位置関係,心室とのつながりなど新しいスクリーニングの視点が必要になる.また,TAPVDのスクリーニングにはカラードプラーが必須である.これらのスクリーニングはレベル1を超えたものであるが,最近の超音波機器の進歩により画質が著しく向上しており,カラードプラーをレベル1のスクリーニングに組み込めば精度向上と時間短縮が期待できると考える.
【結語】
ガイドラインは生れてくる児の予後改善を目的に作られるべきであり,5CV, 3VV, 3VTVまで観察範囲を広げ,さらにカラードプラーを活用したレベルの高いガイドラインの策定が望まれる.