Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 産婦人科
パネルディスカッション8 胎児超音波検査ガイドラインはこれでよいか

(S280)

胎児超音波検査ガイドラインに求めるもの

The considerations in making Guideline of fetal sonography

松岡 隆, 長谷川 潤一, 仲村 将光, 市塚 清健, 岡井 崇

Ryu MATSUOKA, Jyunichi HASEGAWA, Masamitu NAKAMURA, Kiyotake ICHIZUKA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa university

キーワード :

妊婦健診における本邦と諸外国との違いは超音波検査の施行方法と頻度(経腟超音波検査の施行と健診毎に超音波検査を行っている)と思われる.患者が比較的妊娠早期に受診することの多い本邦では,妊娠初期での経腟超音波検査により正確な妊娠週数の確定が可能であり,そのことはその後の胎児発育評価や不必要な分娩誘発の回避に寄与している.また,頸管長測定や前置胎盤の診断の点でも早い時期の超音波検査の有用性と必要性は明らかであると考えられる.しかしながら,健診毎の胎児超音波検査の必要性を,本邦の良好な周産期予後が証明していると言えるであろうか.以下に胎児超音波検査ガイドラインに求めるものを挙げる.
1.検査目的の明確化と検査の頻度:ほとんどの産科診察室に超音波機器が設置してあることは,日々の診療で簡便に超音波検査ができる利点と,検査施行の目的や適応が曖昧になる欠点の両方を持ち合わせていると言える.頻回に超音波検査を施行したとしてもその精度や解釈が不十分であれば何らかの異常を診断することのみならずスクリーニング検査として異常所見を抽出することも困難となるのは明らかであろう.ガイドラインでは超音波検査施行目的をはっきりさせ,超音波検査が医学的に必要な時期を明記すべきである.
2.インフォームドコンセント:日本産婦人科学会で2010年に改定された「出生前に行われる検査および診断に関する見解」において,「ほほ全妊婦を対象に行われる超音波検査も(非確定的検査=いわゆるスクリーニンク的検査に)該当する.日常的に行われる超音波検査はwell-beingを判断するルーチン検査であるとともに,出生前診断として遺伝学的検査となりうることに充分留意しておかなくてはならない.」とあることからも,今後,胎児超音波検査施行に関して何らかのインフォームドコンセントが必要であると考えられる.
3.検査項目:ガイドラインで定める全胎児対象に行われる超音波検査はスクリーニング検査であり,疾患を想定した診断のためではなく,正常所見を確認する検査項目が必要である.スクリーニングの観点から項目内容に簡便さを追求するのに異論はないが,正常の確定が不十分な場合は精査を勧めるシステムも重要である.日々のルーティンの超音波検査と性質を異にする点から短時間に行う事に重きを置く必要はないと思われ,不必要な超音波検査に割く時間を無くすことが先決と考える.また,検査内容のレベルは誰でも出来るだけではなく,現時点で教育的に必要と思われる項目(ISUOG妊娠中期のスクリーニング項目)を含めるべきと考える.
4.検査時期及び回数:胎児超音波検査の目的は妊娠週数の決定と胎児数の確定,胎児の発育評価,先天性形態異常および付属物異常の検索と胎児well-beingの評価が主であり,ガイドラインでは検査時期及び回数の推奨が必要となる.中期の検査時期を22週の前後のどちらかにするかはその検査目的により自ずと決まると思われる.
5.まとめ:ガイドラインにより全胎児にシステマティックな超音波検査が施行されれば胎児異常などが検出される頻度は今より増えることは明らかであるが,肺静脈環流異常や前置血管のように発生頻度が低くても新生児予後への影響が高く,出生前診断が容易でない疾患をピックアップするためには検査そのものの質の向上が必要であると思われる.