Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 消化器
ワークショップ6 消化器疾患診療における超音波Elastography の有用性

(S266)

肝胆膵外科領域に「硬さの科学」を導入する-当科での取り組み-

The infinite possibility of the elasticity in the field of Hepato-biliary-pancreatic surgery

井上 陽介, 長谷川 潔, 大道 清彦, 吉野 裕子, 市田 晃彦, 金子 順一, 青木 琢, 阪本 良弘, 菅原 寧彦, 國土 典宏

Yosuke INOUE, Kiyoshi HASEGAWA, Kiyohiko OMICHI, Hiroko YOSHINO, Akihiko ICHIDA, Junnichi KANEKO, Taku AOKI, Yoshihiro SAKAMOTO, Yasuhiko SUGAWARA, Norihiro KOKUDO

東京大学医学部附属病院肝胆膵外科

Dept. of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery, Tokyo university hospital

キーワード :

【背景】
エラストグラフィという概念が臨床に導入されて10年弱が経過する.もともと実質臓器である肝・膵は以前より手術時に触診・硬さの情報の担う役割の大きかった領域でもある.肝胆膵領域は,腹腔内臓器というハンデもありエラストグラフィの実用化は後れを取っているが,機器の発明,進歩により近年肝・膵を中心に,臨床で硬さの情報を応用する報告が増えてきている.
【目的】
当科における,肝胆膵領域でのエラストグラフィの実臨床での応用,研究につき紹介し,徐々に明らかになりつつあるその有用性につき報告する.
【方法】
当科で現在実施または導入中のエラストグラフィを用いた研究は以下の5つである.①肝腫瘤性病変に対する術中エラストグラフィ:肝腫瘤性病変に対して,日立アロカのReatime tissue elastography(RTE)を術中適用し,その診断能,有用性を検討する.②肝線維化診断におけるエラストグラフィの有用性:以前より同目的の報告は数多くみられるが,ほとんどはgold standardが肝生検に設定されているため,非劣性であることまでしか証明できていない.結果,臨床の肝線維化診断においてエラストグラフィが肝生検を代替するには至っていない.そこで我々は,日立アロカとの共同研究として,術中も含めたRTEによる線維化診断と,肝生検標本それぞれの診断能を,切除肝のブロック検体をgold standardとして比較する前向き試験を実施中である.③肝硬度と手術成績の相関:線維化や肝硬変で硬い肝臓ほど,離断中の出血が多く,術後の腹水遷延,高ビリルビン血症などの合併症も頻度が高いことは,肝臓外科医ならば経験的に知っているが,実際に硬さを客観的に測定し,手術成績と比較した報告はない.ARFIを含めたエラストグラフィによる肝の硬さの客観的測定値と,術後短期成績の相関を検討し,合併症のリスク予測因子として「硬さ」が有用であるかを検討する.④膵実質の硬さと,膵切除後膵液瘻の相関:膵切除術後の膵液瘻は現在でも最も頻度が高く時に致命的であり,克服が急がれる合併症である.正常膵や脂肪化をきたした軟らかい膵は,線維化や膵炎後で硬化した膵よりも,膵液瘻率が高率に発生することは報告されている.当科では,術前に膵の硬さを定量的に評価し,術後の膵液瘻の頻度や病理組織学的所見との関連を検討する前向き試験を準備中である.⑤化学療法前後の肝硬度,脾硬度と肝障害の相関:Oxaliplatinを用いた化学療法後,肝類洞障害の程度を脾のサイズ変化で予測する,という報告が見られた(Overman MJ et al. J Clin Oncol. May 20;28(15):2549).また,化学療法後の肝が非常に柔らかく変化している所見は,肝切除術中によく見受けられる.そこで我々は,化学療法前後の肝・脾の硬度の変化と実際の臨床検査値,肝切除後合併症率,組織学的所見との関連を検討し,肝硬度が化学療法による肝障害のsurrogate markerとなりうるかを評価する前向き試験を準備中である.
【結果】
①は2010年9月より,当科の肝切除症例の原則全例に術中RTEを導入し,160結節で中間解析を行った.現在3cm以下の病変を中心に,ソナゾイドと組み合わせた診断アルゴリズムを策定中である.②,③は,2011.12月より,症例登録を開始.④,⑤は倫理委員会準備中である.
【結論】
「触診」はやや主観的であるが肝胆膵領域で担う役割は大きかった.今後はエラストグラフィが「触診」に客観性を加え,より正確な診断,治療の一助となることが期待される.