Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 消化器
パネルディスカッション9 消化管疾患における超音波検査の現状と今後

(S250)

消化管疾患における体外式超音波検査の問題点について

Limitations of transabdominal ultrasonography for diagnosing gastrointestinal diseases

眞部 紀明1, 畠 二郎1, 筒井 英明2, 河合 良介1, 今村 祐志1, 山下 直人3, 楠 裕明3, 春間 賢2

Noriaki MANABE1, Jiro HATA1, Hideaki TSUTSUI2, Ryosuke KAWAI1, Hiroshi IMAMURA1, Naohito YAMASHITA3, Hiroaki KUSUNOKI3, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 2川崎医科大学消化管内科学, 3川崎医科大学総合臨床医学

1Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 3Department of Health Care Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【緒言】
近年,非侵襲的に多くの情報が得られる体外式超音波検査(US)の消化管領域における臨床応用に注目が集まりつつあり,多くの施設からその有用性が報告される様になってきている.USを確実に臨床応用していくには,US診断の現状での問題点について把握しておく必要があるが,これまで消化管領域におけるUSの問題点について検討した報告は少ない.本パネルディスカッションでは,消化管疾患におけるUS診断の現状での問題点に関して,我々のこれまでの検討結果と症例を呈示しながら議論する.
【US診断の施設間格差】
近年行なった大腸憩室炎の診断法に関する多施設共同研究において,USのみで診断している施設は全体の4割に過ぎず,消化管領域におけるUSは未だ普及しているとは言えない.
【急性腹症に対するUSの診断能】
当院の急性腹症のうち確定診断の得られた症例に対するUSの検出能の検討では,概ね90%台前半であり,優れた診断法と考えられる.しかしながら,鑑別疾患の段階で5%に誤診が生じており,鑑別すべき疾患から如何に正しい最終診断に持ち込むかが重要であり,今後の正診率向上のためにはUS画像の解釈をより正確にしていく必要があると考えられる.
【消化管出血症例に対するUSの診断能】
胃・十二指腸・大腸出血症例の病変検出率は90%台後半である.憩室出血,直腸潰瘍で検出率が低下していたが,造影US検査を追加しextravasationを確認する事でその感度は上昇した.小腸疾患からの出血の検討では腫瘍性病変のUS検出率は53.3%,びらん・潰瘍性病変の検出率は40%と胃・十二指腸・大腸病変に比較し劣る.特に長径20mm以下の病変や壁肥厚を伴わない病変は現状では検出が困難であり,このことを念頭に入れて置く必要がある.
【腫瘍性疾患の深逹度診断に対するUSの診断能】
胃癌のUSの病期正診率は61.8%であるが,T因子とN因子の正診率の低下に起因していた.T因子については,潰瘍を伴った陥凹性病変の壁深逹度の診断が問題であった.また,リンパ節転移の判断には,リンパ節の腫大あるいは縦横比の変化を指標にしているが,この様な変化を伴わない転移症例もあり現状のリンパ節転移に関する判断は困難な場合がある.大腸癌でのUSの病期正診率は55.8%であるが,特にN因子の正診率の低下が問題であった.
【クローン病における狭窄病変の線維化の診断能】
クローン病の臨床経過において,潰瘍治癒に伴い腸管壁の線維化に伴う管腔の狭小化が生じ臨床上問題となる事がある.消化管の炎症による壁肥厚に伴う管腔の狭小化との間の鑑別で問題となる場合があるが,一般に線維化に伴う管腔の狭小化では血流が乏しい印象がある.しかしながら,線維化病変においても造影USで血流シグナルが描出される場合があり,現状では造影USによる評価は一つの参考所見にはなるが,絶対的所見ではない点を念頭に置く必要がある.
【腸管虚血に対する造影USの診断の限界】
壊死のため手術により腸管切除となる前に早期の的確な診断が必要であるが,絞扼性腸閉塞の早期診断が,現時点では全例で容易とは言えない.我々の検討では造影USにおける腸管虚血の感度は100%,特異度は98%であるが,腸管切除が回避される様な早期診断症例は少ない.
【結語】
USは簡便で非侵襲的であり,消化管疾患における効率的かつ迅速な診断や精査になくてはならないmodalityと考えられるが,現状での問題点を考慮し,US所見を解釈していく必要がある.