Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 消化器
パネルディスカッション9 消化管疾患における超音波検査の現状と今後

(S248)

小児消化管疾患に対する超音波診断

Ultrasonographic diagnosis of gastrointestinal tract disease in pediatric patients

須貝 道博

Michihiro SUGAI

弘前大学医学部附属病院小児外科

Pediatric Surgery, MD, PhD

キーワード :

【はじめに】
われわれは小児外科診療に超音波検査法(以下US)を積極的に応用し,その有用性を報告してきた.今回は小児外科領域の消化管疾患に対するUSの現状を報告し,合わせて将来の展望についても言及する.
【小児外科領域の消化管疾患に対するUS診断の現況】
消化管疾患USの診断能,意義等を疾患別に簡述する.1. 胃食道逆流症:乳児期嘔吐の一因であり最近では重症心身障害児での頻度が高く早期診断,治療後の評価が重要である.USでは腹部食道の長さやヒス角の鈍化から診断が可能で逆流の評価はドプラにより判定できる.2. 肥厚性幽門狭窄症:USは腫瘤径,筋層厚の正確な測定より本症の早期診断,手術適応の決定を可能とし腹腔鏡手術の際にも大いに役立った.筋層厚の術前US測定値と術中測定値とは1mmの誤差範囲内で98%(70/73)の一致率であった.また腫瘤径測定により腹腔鏡下での幽門部切開線の長さ決定に大いに役立った.3. 先天性十二指腸狭窄:USを施行した15例では存在診断のみならず,膜様物の同定による膜様狭窄,十二指腸を取り巻く膵の同定による輪状膵の診断が可能であった.4. 腸回転異常症:腸回転異常症に伴うSMV rotation signの描出や中腸軸捻転症ではドプラによる渦巻き様所見(whirpool sign)が特徴的であり,上部消化管造影を行うことなしに,緊急手術適応に寄与した.5. 急性虫垂炎:腫大した虫垂の同定が89%(57/65)で可能であった.また虫垂壁構造の変化から病期,手術適応の決定に役立った.回盲部リンパ節炎との鑑別診断が可能で不必要な外科手術の回避に寄与した.腫瘤形成性虫垂炎では化学療法後の縮小効果判定に造影USが有用であった.6. 腸重積症:従来の造影検査では診断が容易でない小腸小腸型の診断に特に重要であった.また先進部腫瘤の存在診断も可能であった(3 / 7).整復後再発の有無についても重要な情報を与えた.7. イレウス:癒着性イレウスでは腸管拡張像,腸管内容停滞像,腹水像などが手術適応の判定上重要な所見と考えられた.開腹既往のないイレウスの鑑別診断にも有用であり原因としてmesodiverticular band,内ヘルニア,腸間膜嚢腫,腸管重複症,消化管内腫瘍が診断された.8. 鼠径ヘルニア:受診時鼠径部に膨隆のみられないヘルニアの診断や反対側の腹膜鞘状突起やヌック管開存の有無判定に寄与する.ヘルニア反対側の腹膜鞘状突起の開存率は65%(95/150)であった.腹腔鏡下ヘルニア手術の際の反対側手術の有無判定にも寄与した.9. 直腸肛門奇形:直腸盲端と肛門閉鎖部の距離より倒立X線撮影を実施しなくとも病型診断が可能で人工肛門造設の可否判定に有用であった.
【小児外科領域の消化管疾患に対するUSの特殊性と展望】
小児では成人に比してUSの描出能は良好であり,これは腹壁が非薄で体格からしても消化管は浅部に位置し,比較的消化管ガス像の影響を受けにくい.また応用範囲も成人に比して極めて多岐にわたるがこれは先天異常に関連する病態が多いためである.しかるに解剖学的異常を念頭におき走査すれば多くの疾患を診断し得る.さらに手術適応の判定にも有用な情報を与えてくれる.消化管疾患では通常の体表走査でも十分な情報がえられるが,ドプラ検査や三次元超音波検査法,造影検査を加えることによりさらに詳細な診断が可能となる.
【おわりに】
USは小児外科領域消化管疾患の診断に極めて有用で,近年ようやく認知度が高くなってきた.小児科医も消化管のUSに目を向けることによりさらに診断能力の向上が期待される.