Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
ワークショップ9 心臓再同期療法の効果を心エコー図法で引き出す

(S213)

心室再同期療法適応判定における心エコー指標の課題

Echocardiographic Assessment of CRT Indication and Its Problem

鶴田 ひかる1, 岩永 史郎2, 佐藤 俊明3, 西山 信大1, 相澤 義泰1, 谷本 耕司郎1, 村田 光繁1, 高月 誠司1, 福田 恵一1

Hikaru TSURUTA1, Shiro IWANAGA2, Toshiaki SATO3, Nobuhiro NISHIYAMA1, Yoshiyasu AIZAWA1, Kojiro TANIMOTO1, Mitsushige MURATA1, Seiji TAKATSUKI1, Keiichi FUKUDA1

1慶應義塾大学病院循環器内科, 2東京医科大学八王子医療センター循環器内科, 3杏林大学医学部付属病院循環器内科

1Cardiology Division, keio University School of Medicine, 2Cardiology Division, Tokyo Medical University Hachioji Medical Center, 3Cardiology Division, Kyorin University Hospital

キーワード :

心室再同期療法(CRT)は不全心における心室内収縮同期不全(dyssynchrony)を是正する治療であり,薬物治療抵抗性の重症心不全例に対し,重要な治療選択肢の一つである.近年のMADIT-CRT試験やRAFT試験では,より軽症の心不全例におけるCRTの有効性が示され,CRTの恩恵を受けられる患者をいかに適切に選別するかは,心不全治療における課題である.現行ガイドラインのQRS幅による選定基準では,大規模試験においてnon responderが約3割存在し,少数例の報告ではあるが,narrow QRS症例でもresponderが存在するとされ,QRS幅によるCRT治療反応性予測は十分ではない.CRTの治療概念は,左室自由壁の収縮の遅れの是正であることから,収縮同期不全の存在の的確な診断が大前提として必要である.同期不全指標を定量化することを目的として,多くのエコー指標の有用性の報告がなされたが,2008年に報告された多施設研究であるPROSPECT試験は,組織ドプラやM-mode法による心エコーを用いた同期不全指標は,QRS幅による選定に優る有用な指標とはならないことを明らかにした.実際,肉眼的に収縮同期不全を認める完全左脚ブロック例であっても,駆出期内の中隔と側壁の最大速度ピーク間には有意な収縮遅延を示さない例が多く存在する.組織ドプラ法が心臓全体の動きやドプラ角度に依存すること,心尖方向への移動が収縮なのか受動的に牽引されている動きなのかの判別が困難という組織ドプラ法自体の問題点に加え,特に中隔は複数の収縮ピークを呈する事が多く,判定方法として駆出期内に限定した最大速度ピークを用いる事が適切でない可能性がある.現在広く用いられているスペックルトラッキング法は,心筋のスペックルを追従して動きを評価することを可能とし,組織ドプラ法の問題点を克服して心筋の収縮時相をより的確に判定することが期待されている.現段階では,radial strainの中隔と後壁の最大ピークの時間差が130ms以上の同期不全指標が最も有用とされているが,現状では確立した単一の同期不全エコー指標はない.実際に,radial strainにおいても複数のピークを呈し,最大ストレインピークによる同期不全指標では治療反応性予測の判断が難しい例が存在する.一方,ストレインを微分したストレインレートは心筋長の変化する速度であり,心筋長変化の最大到達点を示すストレインよりも,より的確に収縮時相を反映する可能性がある.最大ストレインのピークでは判定が困難であった完全左脚ブロック例でも,ストレインレートを用いることにより,中隔がより早い収縮を示す一方で,側壁は収縮早期に拡張してから遅れて収縮ピークを呈することが明瞭であり,非協調運動 (dyscoordination) を示している.当施設でCRTを施行した重症心不全25例において,心尖長軸方向のストレインレートの治療反応性予測における有用性について検討を行い,ストレインレートの中隔-側壁時間差をROC解析からcutoff 160msとし(AUC 0.94,p<0.001),QRS幅,従来の組織ドプラ法よりも高い感度,特異度でCRT反応例を予測する事ができた.(94%, 88%)CRTの治療効果は,同期不全に加えて,基礎心疾患(虚血性か非虚血性か),残存心筋予備能,収縮遅延部位と左室リード位置の一致性などの複数の因子が関与し,単一の同期不全指標では,治療反応性を完全に予測する事は難しい.しかし,適切な収縮時相を判断してこそ,心室内収縮同期不全の適切な判定につながると思われ,簡便で普遍性のあるエコー指標の確立が望まれる.