辰巳 和宏, 田中 秀和, 松本 賢亮, 辻 隆之, 金子 明弘, 漁 恵子, 吉田 明弘, 川合 宏哉, 平田 健一

Kazuhiro TATSUMI, Hidekazu TANAKA, Kensuke MATSUMOTO, Takayuki TSUJI, Akihiro KANEKO, Keiko RYO, Akihiro YOSHIDA, Hiroya KAWAI, Ken-ichi HIRATA

神戸大学大学院医学研究科　内科学講座　循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【目的】
3次元スペックルトラッキング法は,従来の2次元法とは異なり,左室全16領域の局所心筋機能が同一心拍で評価できるため様々な利点がある．さらに,3次元スペックルトラッキング法は心内膜面の局所面積変化率（Area Tracking）の測定が可能であり,Circumferential strainとLongitudinal strainの両方の成分を持つ新しい指標と考えられている．また,我々は左室心筋のviabilityとdyssynchronyを同時に評価できるStrain Dyssynchrony Index（SDI）をArea Trackingを用いて算出し,心臓再同期療法（CRT）のresponder予測に応用できることを報告した．以前よりnarrow QRS患者でも左室のmechanical dyssynchronyが存在し,CRTのresponderになり得ると報告されているが,narrow QRS患者間での詳細なmechanical dyssynchronyの特徴に関する検討はなされていない．本研究の目的は,3次元スペックルトラッキング法によるArea Trackingを用いてnarrow QRS患者のmechanical dyssynchronyの特徴を検討することである．
【対象と方法】
対象は左室駆出率が35％以下のnarrow QRS患者（＜120msec）44例とwide QRS患者（≧120msec）30例である．また,正常例25例を比較対象とした．narrow QRS患者はQRS幅によりborderline narrow QRS群（100-120msec,21例）とvery narrow QRS群（＜100msec,23例）に分類した．Area Strainを用いて左室全16領域におけるtime-to-peak strainの標準偏差（time-SD）とSDIを計測した．我々の報告に基づき,CRTのresponderを予測するカットオフ値をSDI＞3.8％と定義した．
【結果と考察】
narrow QRS群のtime-SD及びSDIは,正常群に比し大,wide QRS群に比し小であった（全てp＜0.001）．また,very narrow QRS群のtime-SDとSDIはborderline narrow QRS群に比し小であり（85±29 vs. 111±43ms, 1.8±1.2 vs. 2.5±1.2％, p＜0.01と＜0.05）,正常群に比し大であった（85±29 vs. 40±21ms, 1.8±1.2 vs. 0.73 ± 0.53％, 両者p＜0.001）．SDI＞3.8％を満たす割合は,narrow QRS群で16％（7/44）であり,正常群の0％（0/25）に比し大（p＜0.05）であり,wide QRS群の50％（15/30）に比し小であった（p＜0.01）．また,very narrow QRS群でも17％（4/23）の症例でSDI＞3.8％であった．一方,narrow QRS群間においてはQRS幅とtime-SDとの間に弱い正の相関を認めた（r=0.33, p＜0.05）．
【結語】
narrow QRS患者でも有意なmechanical dyssynchronyを有する症例は存在し,よりQRS幅が大きい群（borderline narrow QRS群）で顕著であった．しかしながら,非常にQRS幅が小さい群（very narrow QRS群）においても,有意なmechanical dyssynchronyが存在していた．これらの症例はCRTの適応になり得る可能性があり,3次元スペックルトラッキング法によるArea Strainを用いた指標が臨床的に有用である可能性が示唆された．