Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
パネルディスカッション10 心エコーにおける技師の技術向上

(S201)

師匠の技は見て盗め:日本式徒弟制度

The skill of a teacher looks, and steal it:Japanese-style apprenticeship

田中 教雄

Norio TANAKA

国立循環器病研究センター臨床検査部

Clinical Laboratory Department, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

心エコー検査は,循環器疾患の診断・治療において欠かせない検査の一つであり,そこから得られる情報量は非常に多いことは今さらいうべきことでもない.しかし,心エコー検査の特色は,検査者の技量や知識量の違いで,得られる所見,診断,情報量に差が生じることである.そういう意味においても心エコー検査は非常に奥が深いものがあり,極めるには長い道のりがある.それゆえ,検査に携わる技師は技術向上のため,日々努力していることであろう.さて,ここで問題となるのが,いかに自分自身が正しい技術・知識の向上を図るかである.その方法にはいくつかある.先輩の技を見て盗む,先輩から教わる,独学で勉強する,それらを混合したものなど様々である.いずれも一長一短があろう.また,最近では心エコーに関する教科書が数多く出版され,講習会や研修会もいたる所で開催されており,検査方法,測定方法や疾患に対する知識の習得が容易となっている.技術面においてもハンズオンセミナーへの参加や,研修施設での研修,さらには先輩技師達の努力の賜により,その技術が継承されるようになってきた.ここで,師匠と呼ばれる高名な先生や先輩技師の技を見て盗む,いわゆる日本式徒弟制度について考えてみたい.心エコー検査が出始めた頃は今とは違って,教科書や講習会は少なく,結局独学や師匠の技を見よう見まねで自分自身の技術向上を図ることが主流であり,私自身も心エコー検査を始めた頃はそうであった.振り返ってみると,師匠と呼ばれる人が検査をしている傍らに立ち,師匠が探触子を持って走査しているところと,画面に映し出される画像を見比べながら,どのように走査をすればどのような画像が描出されるのか,また美しい画像が描出できるのかを食い入るように見て走査方法・手順,描出方法を学んだ.検査が終われば,師匠が記録した写真,8mmフィルム・ビデオテープを見返して,その疾患を検査する上で必要な静止画像,動画像,記録手順などを復習した.さらに報告用紙とも照らし合わせながら,壁運動異常があれば,その程度を目に焼き付け,またこの疾患ではどのような所に着目をして,どのようなことを考えながらこのような所見を書いたのか,どう診断したのかなど,想像を巡らしながら一つ一つ学んだ.なかでも,何を考えながら検査をしたのか,その意図を汲むのには苦労した.このようなことを毎日夜遅くまで続けたものだった.自分自身が検査をするときは,これらのことを思い出しながら,見よう見まねで検査をした.その結果,やはり自身の技術向上には時間がかかった.この「師匠の技を見て盗む」というやりかたは,技術向上を図りたいという学ぶ側の姿勢としてはよいが,修得に時間を要することや,断片的,また偏った技術・知識を習得している可能性がある.また,師匠のまねをしているため,なかには間違ったことを学び,それを実践している可能性もある.さらに,同じ師匠の技を見て盗んでも,学ぶ側の人によって技量・知識に差が生じることも懸念され,心エコー検査の質やレベルを一定に保つことが困難になることも考えられる.今の心エコー検査は次々に新手法などが開発され,その進歩は早く,もはや徒弟制度という方法だけでは教育が追いつかないのが現状である.そういう意味においても,実践的な内容を網羅したガイドラインを作成し,それに側した効率のよい教育方法をとりいれていくべきであろう.