Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
パネルディスカッション3 成人先天性心疾患への心エコーによるアプローチ

(S198)

小児科医における成人先天性心疾患患者に対する経食道心エコー検査の経験

The experience of the transesophageal echocardiography to the adult congenital heart disease by the pediatric cardiologist

富松 宏文

Hirofumi TOMIMATSU

東京女子医科大学循環器小児科

The Department of Pediatric Cardiology, Tokyo Womens’ Medical University

キーワード :

【背景】
成人先天性心疾患(ACHD)の診療において心エコーは重要な役割を持つことは言うまでもない.しかし,成人では手術既往の影響や体格などから,経胸壁心エコー(TTE)では音響窓が不良であり,十分な情報が得られないことが多い.したがって,経食道心エコー(TEE)は小児よりもその重要性は高い.しかし,TEEは内科では通常の検査として広く行われているが,小児科領域では十分に普及しているとはいいがたい.近年,心房中隔欠損(ASD)に対するカテーテル治療が施行されるようになり,TEEが必須のモニターとして位置づけられているため小児科医もTEEを施行する必要性が増加しつつある.しかし,小児科医が系統的にTEEのトレーニングを行うシステムは無く,現在は限られた施設で行われているに過ぎない.
【目的】
ACHD患者に対して小児科医により施行されたTEEを検討し,その安全性,有用性,問題点などを明らかにする.
【対象】
2000年1月から2010年12月までに当院の循環器小児科医がTEEを施行した831人のうち,20歳以上のACHD494人.
【方法】
報告書などを元に,後方視的に疾患,検査目的,合併症などについて検討した.
【結果】
疾患としては,2007年からASDのカテ治療が可能となり,ASDの患者数が激増した.ASD以外の心疾患は完全大血管転換に対する心房スイッチ術後,ファロー四徴術後,ダブルスイッチ術後など多岐であり一定の傾向はなかった.検査目的はカテーテル治療のためのモニターとしてのTEEが103例であり,全例カテーテル室において気管内挿管下に全身麻酔中に施行した.診断のための検査は391例で,目的としてはASDに対するカテーテル治療の適応決定のためのものが88例で,その他はFontan後での不整脈に伴う血栓検索,疣贅検索が96例,その他,左室流出路狭窄の評価,房室弁形態や大動脈弁逸脱の診断などであった.診断目的の場合には原則的に鎮静剤投与下に自発呼吸の元に検査した.診断のための検査ではほぼ全例で検査の目的を達することができたと判断したが,ラステリ術後の心外導管の評価や大動脈弁位に人工弁がある時の右室流出路の観察や心房スイッチ術後の心房間遺残短絡の評価は不十分であった.安全性については,特別の処置を要さない軽微な口腔内出血以外合併症は認めず,安全し施行できた.初期の症例で探触子を挿入できなかったものが2例あった.
【考案】
ACHDに対して小児科医が施行したTEEは安全で有用であった.しかし,成人では心疾患だけでなく,様々な全身性疾患を有していることが多いため,検査前のチェックは小児とは異なった注意を払う必要がある.また,TEEを安全で有効に施行するためには,探触子の挿入技術だけでなく,心疾患の形態的特徴や血行動態の理解に加え成人における生理的な加齢変化についても充分な知識を有することが重要であると考えられた.
【結語】
ACHDに対するTEEはTTEでは得られない重要な情報が得られ,有用な検査である.今後先天性心疾患の知識を持ち,かつTEEの知識や技術を持つ医師を養成するシステム作りが望まれる.