Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
パネルディスカッション3 成人先天性心疾患への心エコーによるアプローチ

(S196)

成人先天性心疾患に対する心エコーの役割

Role of echocardiography in patients with adult congenital heart diseases

森 一博

Kazuhiro MORI

徳島県立中央病院小児科

Dept. of Pediatrics, Tokushima Prefectural Central Hospital

キーワード :

 本邦ではすでに40万人以上の先天性心臓病患者が成人に達している.心房中隔欠損と動脈管開存を除く多くの疾患では,心内修復術後も何らかの問題をかかえて成人となる.本keynote lectureでは,成人先天性心臓病における心エコーの果たす役割を概説したい.
【術後のフォローアップ】
Fontan手術は,肺循環が心室からの駆動によらず,体循環に連続した循環として維持される.種々の複雑心奇形でチアノーゼと容量負荷を軽減できる画期的な術式で,25年生存率は70%と良好である.しかしながら,血栓形成,肺動脈の発育不良,側副血行路,蛋白漏出性胃腸症,心房性不整脈,肺動静脈瘻,心機能低下など術後合併症は多彩で,心エコー図の果たす役割は大きい.また,肝臓に腫瘤病変を形成することがあり,腹部エコーも必要である.Fallot四徴症術後の肺動脈弁閉鎖不全は,右室のみならず左室機能に影響を及ぼし,運動耐容能低下と心室性不整脈の原因となる.そのため,右室拡張末期容積>160ml/m2では再手術を要する.一方,右室流出路狭窄では右室/左室圧>0.7で治療を要する.比較的単純な疾患でも,術後に合併病変が進行する場合がある.たとえば,心室中隔欠損術後例で,大動脈弁閉鎖不全,右室2腔症,大動脈弁下狭窄などに注意を払う.
【成人期のカテーテル治療】
 心内修復術後の残遺病変や未治療で成人に達した先天性心疾患に対してカテーテル治療が施行される.心房中隔欠損では,成人期には,加齢/高血圧などによる左室拡張能低下により左右短絡が増加する.本邦ではAmplatzer septal occludeによるカテーテル治療は成人例を含む2500例以上に施行されている.バルーン伸展径<38mm, 前縁を除く欠損孔周縁>5mmが条件で,奇異性塞栓をきたした症例では5mm程度の小欠損でも閉鎖が望ましい場合がある.大動脈縮窄やFallot四徴症術後の末梢肺動脈狭窄などに対しても成人期にカテーテル治療がなされ,心エコーでの評価が必要である.また,海外ではFallot四徴症術後の肺動脈弁逆流に対して「ステントに装着したウシ頚静脈弁」を経静脈的に肺動脈弁位に留置する治療が行われている.
【妊娠と出産】
 妊娠により循環血液量は40%,心拍出量は20%増加する.出産に伴い400から800ml失血する.娩出により心臓への静脈還流が急激に増加する.これらの循環動態の変化が安定化するのは分娩後4週間経てからである.1) Eisenmenger症候群 2)圧較差50mmHg以上の左室流出路狭窄 3)NYHAIII度以上の心不全4) 大動脈径>40mmのMarfan症候群 5) 高度の低酸素血症を伴う例 の5疾患は妊娠に際して厳重な注意を要するか妊娠を避けるべきで,その判定に心エコーが重要である.Fontan術後症例も,心機能が良好な場合は妊娠や出産が可能である.しかし,妊娠継続可能例は約50%で,妊娠に伴い心機能が悪化する場合もあり心エコーを含めた慎重なフォローを要する.
【拡大する大動脈】
 大動脈2尖弁では血管壁の弾性が低下しており,組織学的には中膜壊死を認め,狭窄の程度に見合わない上行大動脈の拡大を生じる.また,Fallot四徴症その他の術後でも同様の現象を認めることがある.このように先天性心臓病の一部の症例では大動脈壁にcyctic medial necrosisによる脆弱性が存在し,数十年の経過を経て高度大動脈弁逆流や大動脈解離にまで至る例がある.