Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
シンポジウム8 弁膜症の診断と治療

(S189)

重症大動脈弁狭窄症における経食道心エコーによる大動脈弓部プラークの評価について

Prevalence and Clinical Correlates of Aortic Arch Plaques in Patients with Severe Aortic Stenosis: A Transesophageal Echocardiographic Study

杉岡 憲一, 穂積 健之, 松村 嘉起, 伊藤 朝広, 葭山 稔

Kenichi SUGIOKA, Takeshi HOZUMI, Yoshiki MATSUMURA, Asahiro ITO, Minoru YOSHIYAMA

大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学

Department of Internal Medicine and Cardiology, Osaka City University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景および目的】
高齢化社会にともない,動脈硬化に関連した大動脈弁狭窄症が増加している.また,重症大動脈弁狭窄症例において大動脈弓部の動脈硬化性プラークは高率に検出され,脳梗塞との関連も示唆されていることより,本症における経食道心エコーによる大動脈弓部プラークの評価の重要性は増してきている.さらに,近年のMRIによる検討では,経皮的大動脈弁留置術(TAVI)施行後に,無症候性脳梗塞を含めて68-84%の症例において脳梗塞を発症し,経食道心エコーにより検出された大動脈弓部プラークの存在が最も関連する因子であったと報告されている.そこで,本研究では,重症大動脈弁狭窄症において,大動脈弓部プラークの頻度とその臨床的背景について評価した.
【方法】
対象は,大阪市立大学附属病院生理検査室にて経食道心エコーを施行した重症大動脈弁狭窄症151例(平均年齢71±7歳,男性73例,平均大動脈弁口面積0.67±0.15cm2,二尖弁29例).2次元および3次元経食道エコー(biplane法) により大動脈弓部を詳細に観察し,大動脈弓部プラークの存在,性状について評価した.4mm厚以上のプラーク,潰瘍性プラーク,可動性プラークを大動脈弓部complexプラークと定義した.Complexプラークと動脈硬化の危険因子(年齢,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙),冠動脈疾患合併,血液透析の有無,大動脈弁の形態(三尖弁および二尖弁)について,ロジスティック解析にて検討した.
【結果】
大動脈弁狭窄症例ではコントロール群と比較して,大動脈弓部プラーク (75% vs. 41%; P<0.0001) およびcomplexプラークの頻度 (28% vs. 10%; P<0.05) は有意に高かった.二尖弁大動脈弁狭窄症例では,三尖弁大動脈弁狭窄症例と比較して,上行大動脈径は有意に大きかったが (38±7mm vs. 33±4mm; P<0.0001),大動脈弓部プラーク (48% vs. 82%; P<0.001) およびcomplexプラークの頻度 (10% vs. 32%; P<0.05) は有意に低かった.三尖弁大動脈弁狭窄症122例においてロジスティック単変量解析を施行したところ,高血圧 (P<0.05),血液透析施行 (P<0.05),冠動脈疾患の合併 (P<0.05) が,大動脈弓部complexプラークの関連因子であった.これらの有意な関連因子で補正したロジスティック多変量解析によると,冠動脈疾患の合併が大動脈弓部complexプラークの独立した関連因子であった (OR2.59: 95%CI 1.12-5.98; P<0.05).
【結論】
重症大動脈弁狭窄症において,大動脈弓部プラークは三尖弁例で高率に認められた.さらに三尖弁大動脈弁狭窄症例において,脳梗塞のリスクと考えられる大動脈弓部complexプラークの存在は,高血圧,血液透析および冠動脈疾患合併と関連を認め,中でも冠動脈疾患合併が最も強い関連因子であった.したがって,外科手術前には,特にこれらの症例において,経食道心エコーにて大動脈弓部プラークを評価することが必須であると考えられた.

【参考文献】
Kahlert P et al. Circulation. 2010;121:870-878.
Sugioka K et al. Am J Cardiol. 2011;108:1002-7.
Fairbairn TA et al. Heart. 2012;98:18-23.