Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 循環器
シンポジウム8 弁膜症の診断と治療

(S188)

硬化性大動脈弁狭窄症の重症度別年間増悪率と内科治療の限界

The annual deterioration rate based on severity and limitation of medical therapy of sclerotic aortic stenosis

村上 弘則

Hironori MURAKAMI

手稲渓仁会病院心臓血管センター循環器内科

Division of Cardiology, Cardiovascular Center, Teine Keijinkai Hospital

キーワード :

硬化性大動脈弁狭窄症(sAS)は動脈硬化と同様の機序で,大動脈弁が硬化,石灰化し,開放制限が出来する疾患である.2008年の改訂ACC/AHA practice guidelineでは,大動脈弁口面積(AVA)は年間0.1cm2縮小し,大動脈弁圧較差(AVPG)は年間10mmHg増加すると報告されている.しかし,日本人のsASの臨床経過についての調査報告はなく,その経過は全く不明である.高齢者人口の急激な増加により,日常診療で,同症の患者が急激に増加している.様々な合併症や全身状態による治療制限がある事から,日本人のデータを基礎にした本疾患の進展予測は,患者の予後や治療法を考慮する上で非常に重要である.治療は大動脈弁置換術(AVR)が最も有効で長期予後を保証する(経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は日本ではまだ認可されていないので今回の話題としない).しかし,高齢者が患者の大部分を占めるため,たとえAVRの適応に合致しても,手術出来ない症例が少なくない.これらの症例はAVR以外の内科的治療によるコントロールが望まれる.薬剤では過去,スタチンとACE阻害剤(ACEI)が検討されたが,残念ながらスタチンの増悪抑制効果は認められず,ACEIの効果についても結論が出ていない.薬剤以外にカテーテル治療も試みられているが,少数例への施行に留まり,成績はいまだ明確ではない.当科でsASと診断された症例を2006年AHA/ACC practice guidelineに従い3群(重症群;AVA<1.0cm2,165例,中等症群;1.0<AVA<1.5cm2,287例,軽症群;1.5<AVA<2.0cm2,263例)に分類し,その年間増悪率をみると,AVAの年間増悪率は重症群と中等症群が0.1cm2,軽症群が0.2cm2(P<0.001 vs. 重症)と軽症群の増悪率が最も大きかった.一方,AVPGの年間増悪率は重症群が8mmHg,中等症群が6mmHg,軽症群が3mmHgと重症化するに従い増加した(P<0.01 vs. 重症).AVPGは左室収縮能や末梢血管抵抗などの要因で変化するため,AVAが重症化を示す最も有用な因子と考えると,軽症例で最も増悪し,重症化するに伴い増悪率は緩慢となると考えられる.重症例の平均年齢は83歳と,中等症以下の平均年齢の80歳より有意に高齢であった(P<0.01 vs. 重症),男女比は重症化するほど有意に女性の比率が増加した.心事故をみると,軽症群と中等症群で差はなく,重症群で有意に多かった.軽症群の13%,中等症群14%が平均2年で心事故を発生していた.ACEI/ARBはsASの増悪を抑制せず,心事故率も低減していなかった.経中隔的大動脈弁形成術(ante PTAV)はAVR不可能な難治性心不全例に対して極めて有用であり,合併症も少ない.効果は直ぐに現れて心不全は速やかに消失し,NYHA gradingは軽減した.術後,6-12ヶ月でAVAは術前値に復するが,症状の再増悪が遅延,あるいは増悪することなく経過した.残念ながらante PTAVの長期予後については未だ明らかではない.sASは高齢で発症し,軽症での増悪率が高い.現時点でsAS増悪抑制のみならず,心事故予防に対しても有効な薬剤は明らかではない.AVRは適応患者全てに施行することができないので,ante PTAVはAVR不能の難治性心不全症例では福音となりうる可能性がある.