Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
ワークショップ10 超音波医療における安全性に関する基礎知識

(S179)

超音波の安全性-放射線および温熱によるDNA損傷の比較検討-

Safety of ultrasound -Comparison of DNA damage induced by ionizing radiation, heat stress, and ultrasound

近藤 隆1, 古澤 之裕1, 小川 良平1, 趙 慶利1, 田渕 圭章2

Takashi KONDO1, Yukihiro FURUSAWA1, Ryohei OGAWA1, Qing-li ZHAO1, Yoshiaki TABUCHI2

1富山大学医学薬学研究部(医学)放射線基礎医学講座, 2富山大学生命科学先端研究センター

1Department of Radiological Sciences, University of Toyama, 2Division of Molecular Genetics Research, Life Science Research Center, University of Toyama

キーワード :

【目的】
超音波は診断のみでなく,機械的作用や熱的作用を利用してがん治療にも用いられている.超音波による温熱療法装置は病巣を加温することで温熱(ハイパーサーミア)治療に用いられており,また集束超音波は超音波を集中させることによる高温を利用し前立腺がんや乳がんの治療に用いられている.温熱によるがん細胞死誘導のメカニズムの一つとしてリン酸化ヒストンH2AX(gammaH2AX)フォーカス形成に示されるDNA損傷が注目されている.温度上昇が十分な超音波照射条件下では熱作用によりDNA損傷を引き起こすことが考えられるが,超音波が直接細胞内のDNAに与える影響は明らかではない.本研究ではgammaH2AX形成を中心に,超音波のDNA損傷誘発機構に関して調べ,放射線および温熱のそれらと比較検討した.
【材料と方法】
ヒトリンパ腫細胞株,U937を主として用い,周波数1 MHz,PRF 100 Hz,DF 10%の条件でSonicmaster ES-2 (OG Giken Co., Ltd., Okayama, Japan)を用い照射した.陽性対照としてX線照射や温熱処理を用いた. gammaH2AXを特異的抗体による免疫染色法,フローサイトメトリー法,ウエスタンブロット法にて検討した.DNA損傷を中性コメット法による電気泳動度を指標として検討し,また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.キャビテーション指標としてHO・の産生を利用し,DMPOを用いたEPR-スピン捕捉法にて検討した.
【結果】
超音波が放射線や温熱と同様,処理後30分の細胞において照射強度・時間依存的にgammaH2AXフォーカスを誘導し,コメットアッセイ法においてもDNA損傷が検出された.亜酸化窒素でキャビテーション最終崩壊温度を下げると超音波によるgH2AXフォーカスは認められず,細胞死も有意に抑制された.一方でDMSOやNACを用いて細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制はなかった.同程度のgammaH2AXを誘導する超音波強度および放射線量において,超音波誘発OH・生成量は放射線による生成量と比べて少なかった.
【結論】
温度上昇を伴わない低強度パルス(バースト波)超音波が,キャビテーションによる機械的作用を主因としてDNA損傷(二本鎖切断)を引き起こすことが明らかとなった.従って,温度上昇を抑え,また,キャビテーションしきい値以下では,DNA損傷を指標にした場合,超音波は安全と言える.