Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム5 バブルを使った診断と治療

(S173)

ナノ微粒子前駆体より生成されたマイクロバブルの診断・治療応用

Imaging and therapeutic application of microbubbles induced from nano-sized lipid precursor

川畑 健一, 浅見 玲衣

Ken-ichi KAWABATA, Rei ASAMI

日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部

Medical System Research Department, Central Research Labotatory, Hitachi, Ltd.

キーワード :

【緒言】
現在,PETにとどまらず,MRIなどの既存の画像診断装置に関しても,組織選択性造影剤および造影システムの研究・開発が盛んである.超音波診断装置は,手術室などに持ち込めるほど小型で,かつリアルタイムな画像化が可能なことから,超音波を用いた組織選択的なイメージングは,治療支援等において利用価値が高いと考えられる.さらに,超音波は,診断のみならず治療へも応用可能なことから,例えば超早期でがん組織を可視化し,その部位を選択的・低侵襲的に治療する早期診断・治療システムにつながることも期待される.我々は,このような腫瘍の診断・治療統合システムを目的とし,高い造影能を持つマイクロバブルと,高い腫瘍到達性を示すナノ微粒子のそれぞれの長所を両立するため,体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しマイクロバブルを生成する,造影剤および造影システムの開発を行っている.相変化ナノ液滴(PCND)と名づけたこのような造影剤は,部位選択的にマイクロバブルを生成し,かつ,音響キャビテーションの核および超音波加熱作用の増強剤となることがわかった.さらに,適切な増感剤を用いることにより,このPCNDを核として生成する音響キャビテーションにより活性酸素を生成させ,この活性酸素および二次的に生成する過酸化水素等により化学的な治療効果を発揮できることも明らかになりつつある.今回,これらの結果について報告する.
【実験方法】
相変化型造影剤は,以下の手順で調製した.低沸点化合物としてC5F12を,高沸点化合物としてC6F14を用い,それらをリン脂質を用いてエマルションとする.さらに,高圧乳化処理を行い直径約400nm (静的光散乱により測定)の粒径のナノ液滴を得た.この液滴からのマイクロバブル生成およびキャビテーション生成を音響的に測定した.また,増感剤を用いた活性酸素生成は,APF(Aminophenyl Fluorescein)からの蛍光強度を指標として用いた.また,in vivoでの検討として,担癌マウスにより効果を検証した.
【結果と考察】
まず,主に1および2MHz超音波を用い,PCNDの存在により,500W/cm2以下の低強度にて加熱凝固およびキャビテーション生成が生じることをin vitroおよびin vivoにより検証した.これらの効果により,担癌マウスにおいてPCNDは超音波単独に比べて有意に高い抗腫瘍効果を示すことがわかった.さらに,キサンテン系色素増感剤のローズベンガル(RB)を1〜20μMの濃度で共存させることで,RBなしで活性損酸素が生成しない超音波条件において有意に活性酸素の生成が見られたことがわかり,化学的抗腫瘍効果の促進が可能であることが示唆された.今回得られた結果を元に,熱的治療効果と化学的治療効果の相乗的な効果により効率的にがん治療を行うことのできるシステムの開発を目指す.
【謝辞】
本発表の一部は,総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラムにより,日本学術振興会を通して助成されたものである.