Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム5 バブルを使った診断と治療

(S173)

音響放射圧によるバブルの運動制御とソノポレーション

Control of micro bubble dynamics by acoustic radiation force and sonoporation

山越 芳樹

Yoshiki YAMAKOSHI

群馬大学大学院工学研究科電気電子工学専攻

Graduate school, Gunma University

キーワード :

【目的】
 マイクロバブルは超音波増影剤として使われているが,強力な超音波照射で気泡が破壊されるときのキャビテーションや超音波照射下で気泡に働く音響放射圧など,超音波と気泡には多くの興味深い現象がある.しかし,これら現象が十分に活用されているとは言いがたい.例えば,キャビテーションにより細胞膜に微小窪みを穿つソノポレーション(音響穿孔)は,薬液導入効率を向上させる技術として研究がなされているが,気泡の多彩なダイナミクスを有効に活かして微小穿孔の効率向上や微小穿穴の質の制御に結び付けようとする視点での研究は十分とは言えない.本稿では,気泡のダイナミクスを超音波の音響放射圧で制御することで微小穿孔の効率向上を図ろうとする試みについて,基礎的な結果を報告する.
【実験方法】
 ソノポレーションのための強力超音波照射前に,ポンピング超音波(気泡を破壊しないが気泡に音響放射圧を加えられる超音波)を照射して,気泡の状態を整え,微小穿孔に寄与する気泡の割合(気泡の利用効率の向上)を図る.ここで制御しようとする気泡の状態とは,気泡の集合化,気泡の壁への付着,壁からの間隔,気泡密度等である.実験では,生体に音響特性が近く光学的に透明な模擬流路(NIPAゲル)を流路として,また気泡としてはレボビストを用いた.まず,ポンピング超音波 (音圧100kPa,周波数2.5MHz,照射時間100ms×3回等)を照射し,音響放射圧で気泡を集合させ気泡クラウドを形成させ,これを流路壁面に付着させる.ここに気泡破壊用超音波(音圧2MPa,周波数2.5MHz)を照射して気泡クラウドを破壊し流路内面に微小窪みを形成させる.このときの気泡のダイナミクスを高速度カメラで,また流路内面に形成された微小窪みを実験終了後に共焦点レーザー顕微鏡で観察した.
【実験結果】
 ポンピング超音波を照射して気泡クラウドを流路壁面に形成させると,ポンピング超音波を照射しない場合に比べて著しく多くの微小窪みが形成された.しかし個々の気泡クラウドの位置と微小孔の位置とは完全には一致しなかった.この結果から気泡クラウド・キャビテーションでは,気泡破壊と気泡の運動が同時に生じていることが推察される.高速度カメラによる観察では,照射後50-150マイクロ秒の間,気泡クラウドがわずかに壁面上を動き近隣の気泡クラウド同士が集合化する現象が観察された(本稿ではこの状態を1st Stageと呼ぶ).更に時間が経過すると集合した気泡クラウドが大きく拡がり,壁面付近を高速に移動した(ここでは2nd Stageと呼ぶ).1st Stageから2nd Stageに移行する時間は気泡密度に依存して変わるが,高気泡密度条件(n=9)において,超音波照射時間を100マイクロ秒から200マイクロ秒へ増加させた時の微小窪みの総面積を評価した所,約8割の微小窪みが1st Stageが主になる100マイクロ秒までで形成された.この結果から気泡クラウドキャビテーションでは,1st Stageが重要になることが示唆された.
【結論】
 マイクロバブルは超音波により音響放射圧を受け,気泡クラウド形成,壁面付近の移動,気泡クラウドの壁面への付着など興味ある現象を示す.また実験で観測されたキャビテーション中の音響放射圧を介した気泡の運動は,音響穿孔の効率化や穿孔の質の制御を行う上で重要になると考えられる.