前佛 聡樹^{1, 2}, 山口 匡¹

Satoki ZENBUTSU^{1, 2}, Tadashi YAMAGUCHI¹

¹千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター, ²千葉大学大学院工学研究科

¹Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University, ²Graduate School of Engineering, Chiba University

キーワード :

腹腔鏡手術は体表より挿入する腹腔鏡の映像を頼りに手術を行う．開腹手術に比べ侵襲性が低いが,奥行き感や治療部位の内部情報を得ることができないため,医師にとっては難しい手技の一つとされている．本研究では,主に肝疾患に対する腹腔鏡手術を支援するために,リアルタイムに生体内部の情報を可視化可能な超音波診断装置を使用し,術中に腹腔鏡により観察される治療対象臓器の表面情報に超音波診断装置で観察される臓器内部情報を重畳表示するシステムを開発した．本システムでは,ステレオ内視鏡を使用して2枚の臓器表面光学像を取得し,ステレオマッチング法を用いて臓器表面の三次元形状を取得する．同時に,超音波診断装置および4-Dプローブを用い,同臓器の三次元超音波データを収集し,複数の画像処理により臓器の表面形状と内部情報を取得する（Fig.1a）．このとき,一般の腹腔鏡手術とは異なり,腹腔内はガスではなく液体で満たされる．これは2009年に五十嵐等によって提案されたWAFLESと呼ばれる新しい手術法である．次に,各モダリティにより取得した臓器表面の三次元形状情報について,両者の間における複数箇所の対応点の距離が最も近づくように三次元での座標変換を行う．ここでは,光学像および超音波像の取得が同時に行われることから,観測対象臓器の変形はないものと仮定し,剛体変換パラメータを算出可能なICPアルゴリズムを用いている．その結果を用い,腹腔鏡映像平面へ臓器内部情報を投影し,腹腔鏡映像に重畳表示する．この時,術者に提示するモニタ上には三次元重畳表示および二次元重畳表示が可能であり,通常の腹腔鏡のみでは得られない臓器内部の情報を容易に観察することが可能となる．市販の腹部ファントム（京都科学 IOUSFAN）を用いて本システムの精度検証を行った．Figure 1（b）に示すように,腹腔鏡映像（臓器表面）と超音波像（臓器内部）が重畳表示された時,その位置合わせ精度は2.48±1.43 mm,処理時間はPC（Intel Xeon E5472 3.00GHz）において約3分であった．位置合わせ精度においては,腫瘍径や肝切除における必要精度に対して十分であると考えられるが,処理時間についてはリアルタイム性にかけている．この点については,超音波データの収集から前処理におけるプロセスを高速化することで対応可能である．