Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 領域横断
ワークショップ4 超音波治療機(HIFU,FUS)の現状と展望−基礎と臨床−

(S159)

MR guided Focused Ultrasound Surgeryによる小乳癌局所治療の現状と展望

MR guided Focused Ultrasound Surgery of small breast cancer:the current status and the future prospects

古澤 秀実1, 志戸岡 純一2, 猪股 益子1, 平原 恵美子1, 安田 由紀子1, 中原 浩2, 前田 資雄1, 駒木 幹正1

Hidemi FURUSAWA1, Junichi SHIDOOKA2, Masuko INOMATA1, Emiko HIRABARA1, Yukiko YASUDA1, Hiroshi NAKAHARA2, Yorio MAEDA1, Kansei KOMAKI1

1ブレストピアなんば病院乳房腫瘍外科, 2ブレストピアなんば病院放射線診断科

1Division of Breast Surgical Oncology, Breastopia Namba Hospital, 2Division of Diagnostic Radiology, Breastopia Namba Hospital

キーワード :

【背景】
超音波を医療に用いようとする試みは,診断よりも治療において20年ほど早く着想され,1975年にDr.Leleは条件を整えれば通常外科手術に代わる理想的低侵襲治療器になりうると喝破している.超音波治療の実用器が臨床現場に登場したのは1990年代初頭であるが,現在ではいくつかの疾患に対する局所療法はもとより,血液脳関門の開放,血栓溶解や薬物,遺伝子の細胞内移送に関してまで研究は進んでいる.乳癌患者において所属リンパ節は癌細胞転移の防衛線とはなりえず,発生の相当早い時期から全身転移を来たす可能性があり,予後を規定するものは外科手術の方法ではなく,全身に転移した潜在癌細胞に対する全身療法であることが明らかとなって久しい.したがって,乳癌局所療法の目的は,「乳房内に生きた癌細胞を残さないこと」に収斂される.乳癌原発巣は多くの症例において浸潤部分と非浸潤部分より成り,局所療法では両成分を共に残さないことが肝要である.一方,現在原発巣の乳房内での広がり描出能(空間分解能)において最もすぐれたmodalityは造影MRIである.
【目的】
MR guided Focused Ultrasound Surgery(MRgFUS)を用いた小乳癌に対する治療の現況報告と展望に関しての考察.
【方法】
2004年2月より行った30例に対する切除臨床試験(終了)と現在進行中の非切除臨床試験における安全性と治療効果,および問題点に関する治療器の改善をoverveiwして,展望を考察した.
【結果】
非切除試験:乳房内原発巣をMRgFUSで治療後,通常外科手術により切除して病理学的治療効果を検証した.閉所恐怖症によって1例が試験脱落となった.重篤な有害事象として1例にIII度皮膚熱傷を経験した.超音波照射された部分の病理学的治療効果は,標本スライド面積で平均96.7%であった.( J. Am. College of Surg., 203: 54-63, 2006) 切除試験:現在までに67例を登録.10例が脱落し,57例に治療完遂した.平均観察期間は49ヶ月(2-79)で,局所再発,遠隔再発および重篤な有害事象を経験していない.非切除試験で経験した皮膚熱傷から,治療器ソフトウェアのバージョンアップが行われ,治療中の皮膚でのエネルギー密度計算によりひとつのspotに対する照射の可否が色分けして提示されるようになり,治療シミュレーション段階での適応にも用いることが可能となった.乳房は皮膚,脂肪,乳腺,間質の組織から成り,年齢や肥満によってこれらの割合には個人差があり,照射された超音波の臓器内反射は組織境界面の多寡による.超音波通過部の組織境界面が多いほど乱反射も多く,正常組織内でのmicrobabbleの発生とその後に続くcavitationの負の連鎖によって治療部位が計画範囲よりも皮膚側に偏移してくる(anterior vertical shift)傾向を認め,熱傷の要因のひとつとなりうる.この問題点に対して新たにweighted elongate spot が開発されことにより安全性が増し,治療者の熱傷に対する不安は払拭された.
【考察】
MRgFUSによる乳癌局所治療は症例を厳選することで通常外科手術と同等の効果が期待できる.問題点として治療時間が長いこと,症例毎の乳房内での超音波反射状況が術前にはわからないこと,超音波照射角が大きくなった場合にはMR thermometryの信用性が下がること,純型粘液癌の治療が困難であることなどが挙げられるが,今後とも症例の蓄積とその丹念な解析により改善点を見出せる可能性がある.