Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 領域横断
ワークショップ4 超音波治療機(HIFU,FUS)の現状と展望−基礎と臨床−

(S159)

キャビテーション気泡の加熱増強効果による超音波治療時間の短縮

Cavitation-enhanced Heating for HIFU Treatment Time Reduction

吉澤 晋1, 中村 高太郎1, 安田 惇1, 浅井 歩1, 森山 達也1, 梅村 晋一郎2

Shin YOSHIZAWA1, Kotaro NAKAMURA1, Jun YASUDA1, Ayumu ASAI1, Tatsuya MORIYAMA1, Shin-ichiro UMEMURA2

1東北大学大学院工学研究科 電気・通信工学専攻, 2東北大学大学院医工学研究科 医工学専攻

1Department of Electrical and Communication Engineering, Tohoku University, 2Department of Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

【目的】
強力集束超音波(HIFU)治療は,体外で発生させた超音波をがんに集束させて非侵襲に加熱凝固治療する手法として注目されている.HIFU治療では1〜3 MHz程度の周波数の超音波が用いられており,一般的には数秒から10秒程度の超音波照射によって数十〜100 mm3程度の組織を加熱凝固させる.したがって,cmオーダの大きさの治療対象に対しては数十回〜数百回の繰り返し照射を行う必要があり,さらに正常組織に生じた温度上昇を冷却する時間を照射毎に必要とするため,治療が長時間にわたることがHIFU治療における問題点の1つとなっている. 治療時間を短縮するためには様々な手法があるが,大幅な時間短縮のためには治療対象における超音波加熱の効率化が重要となる.そのためのアプローチとしては,(1)治療形状の球形化による熱の効率的利用,(2)強力な超音波の非線形性を利用した組織加熱の効率化,(3)気泡などによる超音波加熱増強効果の利用がある.(3)のアプローチには,(3-1)非常に強力な超音波でキャビテーション気泡を発生させる手法,(3-2)気泡を外部から導入する手法,(3-3)キャビテーション気泡の核または前駆体としての物質を外部から導入する手法などがある.本研究では,(1)と(3-1)のアプローチによって超音波治療時間を短縮する手法を開発することを目的とする.さらに,生体内で安定してキャビテーション気泡を発生,成長させるには,非常に強力な超音波を必要とするため,効率的にこれを行うための超音波照射手法の開発も並行して行う.
【方法】
効率的にキャビテーション気泡を発生,成長させるために,2つの周波数を持つ超音波を重畳させた.直径100 mm,焦点距離100 mmのピエゾコンポジットトランスデューサに,0.8 MHzと1.6 MHzの超音波を重畳した波形を入力し,周波数重畳された超音波をアルミ平面上に集束させ,発生,成長するキャビテーション気泡を高速度カメラによって観測した.また,効率的な加熱を行うため,周波数1 MHzの非常に強力な超音波を用い,その焦点を電子走査によって高速に移動させることで瞬時に広い領域でキャビテーション気泡を発生させ,直後に気泡の存在する領域をカバーする広範囲焦点の超音波を10 s照射した.これによって,広い領域でキャビテーション気泡の体積振動による加熱増強効果を利用する手法を開発し,その有効性を検討した.超音波照射対象は,生態模擬ゲルまたは鶏ササミ肉とした.
【結果と考察】
効率的キャビテーション気泡発生方法では,2周波数の超音波をそれぞれの負圧部分が強め合うように重畳した場合に,キャビテーション気泡が効率的に発生し,正圧部分が強め合うように重畳した場合に気泡からの反射波によって気泡群が効率的に成長することがわかった.したがって,負圧強調の波形の直後に正圧強調の波形を照射することで最も効率的にキャビテーション気泡の発生から成長までが行えることがわかった.効率的加熱手法では,生態模擬ゲルの高速度撮影実験によって,広い領域に次々にキャビテーション気泡を発生,成長させ,それを維持することができることがわかった.さらに,鶏ササミ肉を対象とした加熱凝固実験の結果から,キャビテーション気泡の加熱増強効果によって,一度の超音波照射で効率的に大きな領域の加熱凝固を行えるこがわかった.
【結論】
キャビテーション気泡の加熱増強効果を広い領域で利用することにより,10 sの超音波照射で1000 mm3程度の領域を効率的に加熱凝固できる手法を開発した.