Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 領域横断
パネルディスカッション5 全身の血管病を診る:動脈硬化・血栓

(S150)

動脈硬化指標としての腎ドプラエコー:腎血管抵抗値と心血管疾患リスクとの関係

Evaluation of Risks of Atherosclerosis Using Renal Doppler Ultrasonography

小室 薫

Kaoru KOMURO

国立病院機構函館病院循環器科

Department of Cardiology, National Hospital Organization Hakodate Hospital

キーワード :

【背景】
近年,慢性腎臓病(CKD)は心血管疾患を引き起こす危険因子であることがわかってきた.腎ドプラエコーによる腎末梢血管抵抗値(resistive index: RI)は血清クレアチニン値や糸球体濾過量に関連するとされ,従来から腎機能評価に用いられてきたが,心血管疾患リスクとの関連は充分に解明されていない.
【目的】
RIと心血管疾患患者の左室拡張動態,疾患頻度,危険因子との関係を検討し,腎ドプラエコーによる心血管疾患リスク評価の可能性を探る.
【方法】
対象は心血管疾患もしくはその疑いで当院循環器科を受診し,腎ドプラエコーと心エコー検査とを同日に行った洞調律症例398例.有意な大動脈弁逆流と腎動脈狭窄症を除外した.腎ドプラエコー法で左右腎区域動脈でのRIを計測し,左右の平均値を算出した.心エコー図法で左室心筋重量係数(LVMI),左房容積係数(LAVI)および僧帽弁輪の拡張早期最大速度e′と経僧帽弁血流の拡張早期成分Eとの比(E/e′)を計測した.RIと血清クレアチニン値および推定糸球体濾過量(eGFR)との関係,またLVMI,LAVI,E/e′との関係を検討した.さらに,RIが加齢に強く影響を受けることをふまえ,対象を年齢50~69歳に限定し,RIが0.68未満(LowRI)と0.68以上(HighRI)の2群に分け,LVMI,LAVI,E/e′および虚血性心疾患,末梢血管疾患,高脂血症,高血圧症,糖尿病の頻度を比較検討した.
【結果】
全398例では,RIは血清クレアチニン値と有意な正の相関を(r=0.29, p<0.0001),eGFRとは有意な負の相関を認めた(r=-0.39, p< 0.0001).また,RIはLVMI,LAVI,およびE/e′との間にそれぞれ有意な正の相関を認めた(r=0.27, p< 0.0001; r=0.41, p< 0.0001; r=0.36, p< 0.0001).年齢を50~69歳に限定した対象159例では,LowRI群 とHighRI群 との2群間でLVMIに有意差はなく(105±31 vs 121±42 g/m2, ns),LAVIおよびE/e′は有意にHighRI群の方が高値(31±9 vs 40±14, p=0.001; 10±4 vs 13±7, p<0.01)であった.両群間で虚血性心疾患を有する頻度に有意差はなかったが,末梢血管疾患の頻度はHighRI群で有意に高かった(4.1% vs 19.7%, p<0.01).また,高脂血症の頻度には差がなく(36.7% vs 50.8%, ns),高血圧症,糖尿病の頻度はいずれも有意にHighRI群で高かった(63.3% vs 82.0%, p<0.05; 17.3% vs 45.9%, p<0.0001).
【結論】
腎ドプラエコーによる腎血管抵抗値は左室拡張動態と関連し,比較的若年者であってもその高値は末梢血管疾患,高血圧症,糖尿病の有病率と関連した.腎ドプラエコーは腎硬化症や糖尿病性腎症などの動脈硬化性腎障害においても有用であり,心血管疾患患者の病態評価において重要な意義をもつ可能性がある.