Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 領域横断
パネルディスカッション5 全身の血管病を診る:動脈硬化・血栓

(S149)

脳卒中領域における血管エコーの様々な役割

Various roles of the vascular ultrasonography in the stroke case

濱口 浩敏

Hirotoshi HAMAGUCHI

神戸大学医学部附属病院神経内科

Department of Neurology, Kobe University Hospital

キーワード :

【はじめに】
血管エコーは全身血管を無侵襲に評価できる非常に有用な検査法である.脳卒中領域についても,かつては血管造影がgold standardであったが,現在ではより低侵襲,無侵襲な検査法であるCT,MRI,MRAに加えて,エコー検査が重要な役割を担っている.その際,頸動脈エコーだけを知っていればよいという訳ではなく,あらゆる血管エコーが脳卒中診療に関連する.今回,脳卒中領域,特に脳梗塞診療における様々な血管エコーの役割と可能性について報告する.1.脳梗塞の原因診断としての血管エコー:頭蓋内外動脈の狭窄や不安定プラークは脳梗塞の主原因の一つである.これらの観察に頸動脈エコーや経頭蓋エコーを用いることで,危険性の評価と適切な治療方針を検討することができる.特に不安定プラークを観察した場合は,その性状評価を精密に行うことで,発症リスクの判断ができ,また,保存的治療を行うこととしても,定期的に観察することで性状変化を確認することができる.狭窄例については,他の検査に比べて,血流の状態をリアルタイムで評価できることは重要な意味を持つ.2.心原性塞栓を評価するための心エコー,下肢静脈エコー:心原性塞栓を評価する際,経胸壁心エコー,経食道心エコーを用いることで,心内血栓の確認,右左シャントの確認などを行う.この際,右左シャントを確認した場合は,奇異性塞栓の可能性が考えられるため,塞栓源として下肢静脈エコーでDVTを観察する必要がある.特に麻痺のある脳梗塞急性期患者では,安静臥床を強いられるため,高率にDVTを引き起こす可能性がある.適切なDVT予防と評価が重要である.3.脳梗塞の原因としての大血管エコー:脳梗塞の原因として,大動脈解離の頸動脈への波及や大動脈弓部プラークも念頭に置く必要がある.特に,動脈解離が観察された場合は,血栓溶解療法を施行できないため,その評価として血管エコーを用いることは有用である.4.脳梗塞と全身血管病の関連に血管エコーを用いる:脳梗塞は全身血管病の一領域と考えることができる.脳梗塞患者では,冠動脈疾患や末梢動脈疾患の併存もよく経験する.下肢動脈エコーでの異常所見から頸動脈病変を推測することもできる.二次性高血圧の精査としての腎動脈エコーも重要である.5.脳卒中領域における血管エコーの様々な試み:最近では,頸動脈エコーを用いてエコーガイド下にステント留置を行うことも試み成功している.また,血栓溶解療法施行時に経頭蓋エコーを併用することで再開通を観察することもできる.また,浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス術施行前後で頸動脈エコー,経頭蓋エコーを観察することも血行動態を理解する上で有用である.6.その他,異常血管の評価に血管エコーを用いる:頸動脈解離には解離腔の観察を行うだけでなく,血管壁変化を観察することができる.また,もやもや病の評価には頸動脈エコーと経頭蓋エコーが,血管炎の評価には全身血管エコーが有効である.さらに,血行動態を把握するため側副血行路の存在評価にも血管エコーは有用である.以上のように,様々な血管エコーを駆使することで脳梗塞診療は成り立っているといえる.今回,自験例を提示しながら報告したい.